痴話喧嘩のようにいつもより無茶苦茶に振り下ろされる言葉と武器の刃が互いに降り注ぐ。
ガツンとぶつかり合うのは鍛錬用の棍。
紫苑と青舜の持つそれが音を立てているのを、傍で白瑛と白龍は見ていた。


『もう青舜のバカっ!』
「言っても聞かないのは紫苑でしょう!」


言葉と共に耳に届く罵声は普通は気持ちがいいものではないのかもしれない。
しかし白瑛と白龍にはそれが微笑ましく思うのだ。

ずっと言葉と武器はぶつけあって来た2人。
でも本音はぶつけあっている所など見たことが無かった。
心の奥底に本心を隠し目の前の事実から逃げ惑っていたのを見ているのは酷くもどかしくて。
だからこそ主従である主の姉弟は今の光景は待ち望んでいたものに近い。


「微笑ましいですね」

「姉上もそう思いますか?」
「えぇ。2人の関係は傍にいる私が一番知っていますから」


2人の一番近くにいた白瑛から漏れる笑みは本当に暖かいものだった。

林家と李家の因縁はこの煌において有名なこと。
だからこそ世間の目は冷たく、風当りすら良いとは言えない。
そんな環境で育った2人が互いの気持ちに素直になれるとも思ってはいなかった。

しかし、それ故に強く願ったこともある。

この2人に幸福がありますようにと。
白龍と同じように、実の妹や弟の様に接してきた青舜と紫苑。
何に対しても真面目でいつも自分のことを二の次に考えて。
誰かの幸せを願うものが幸せになれない訳がない。


「まだ口喧嘩は収まりそうにないですね」
「でもきっと、もう心配いらないでしょう」

「…俺もそう思います」


ただの気まずい口喧嘩も、今では可愛い痴話喧嘩。
喧嘩をしている本人たちには悪いがどうしても笑いが込み上げてきてしまう。


「青舜も紫苑も、互いを愛し合ってることを知ってますから」


知ったか振りをしているとは思ってはいない。
これは自惚れでなく確信。
長い時を共に過ごしてきた特権とも言える。

言葉の裏に隠された本当の気持ちを伝える術を知ったであろう恋人同士に口を挟むなど、そんな野暮なことをする程白瑛も白龍も子供ではなかった。


『青舜ってば!変に手抜いてる!』
「そういう紫苑も、ですよ!」
『気のせい!』
「じゃないでしょう!」

「…ふふ、」


『白瑛様!』「姫様!」


白瑛の笑い声に反応して2人の棍と声が重なった。
それに目を見開いた白龍がまた次の瞬間に込み上げた笑いを抑えきれず笑い出す。

笑い出した主姉弟に紫苑と青舜の手が止まりぽかんとして見合わせる顔。

妙に堪えきれなくなった2人は手に持ってたものを地面へと放して思わず吹き出してしまった。
そんな幸せを感じる、これは2人が式を挙げる数週間前の出来事。



咲き乱れる笑顔の花

(貴方たちと咲かす)
(それは最高に綺麗な花)

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