いつのまにか縮まっていた距離に理由なんていらなかった。 隣にいるのが当たり前になってて。 それが普通だって思っていた自分がいる。
『シン―?どこにいるのー?』
ジャーファルが探してるっていうのに、とため息をついて王宮を歩き回る私。 王である彼をその名で呼ぶのはこの地に数人しかいないだろう。 その数人に含まれている私は、いわゆる腐れ縁。
シンと一緒にいれば自然と力も付くもので、私も今やこの国の戦力の1つとなっている。 眷属になれなかったのはさておき、昔っからずっと傍にいたシンがこんなに遠くなってしまったのはいつからかな。
『シンー』
名前を呼ぶのも特別になって、それでもシンは変わらない。
「おーお名前、こっちだこっち」
『?……あ、…またそんなとこ隠れて。マスルール使ってジャーファルがすぐに見つけるでしょーに』 「そうなんだけどな」
はは、と笑っているシンは大きな木の上に登っていた。 騒ぎ立てようとする私に一度人差し指を立てた指を口元にもって行き静かに、とジェスチャーをする。
どうせバレるのになんでこうも逃げようとするのだろうか。
「一時の自由を求めて、ってか?」 『…七海の王が随分と小さくなっちゃったもんだね…』 「地位は大きくなったがな!」
『まったく…』
一応バレないように周りを伺ってから木に足を掛けた。 シンの座っている太い枝、私が腰掛けても大丈夫だということを確認して隣に腰掛ける。
『先に言っとくけど、ジャーファルが探してたよ』 「だろうな」 『いやいや"だろうな"じゃなくて』 「しょうがないだろう。俺は机に向かうより外に行きたいんだ」
『…言いつけてやろうかな』 「おっと、それは勘弁」 『冗談』
王に対してこんなことまで言い合えるのは彼の器量と私の性格のせいだろう。 それに、シンが外によく出たがってるのは知ってる。
ずっと迷宮や世界を駆けまわっていたシンに、暗い室内は似合わない。私でもそう思う。 だから今でも私は王であるシンに違和感を感じていた。 私の中のシンはシンであって、王ではなかった。 国と作っていくと決めたシンの隣にずっといても、その違和感から解放されることはなくここまで来てしまったけどシンに対する思いは変わらない。
「こんないい天気なんだ。外に出ないと勿体ないだろう」 『…シンは昔っからそう言って私たち連れ回してたよね』
「とか言って、お名前も楽しんでたよな」 『まぁね』
生い茂った葉を一つ毟って口元に宛がう。 草笛の一種。私のちょっとした特技。 旅の途中でもよくやってたなぁなんて、思い出に老けるのは時が経ってしまった証拠だろうか。
「相変わらずいい音を出すな」 『でしょ』
ピィ、という独特の音が消えるとシンは私と同じように葉を1枚千切って草笛をしようとしてたけど聞こえるのは息を吹き込む音だけ。 力み過ぎだって昔から言ってるのに、なんでこんなことは学習しないんだか。 変なとこが不器用なシン。 そんなシンを隣で笑う私はあの頃と同じ。
「やっぱり俺にはできん」 『へったくそー』
使った葉を手放し、はらりと地に落ちて行く様子を眺める。 ゆっくりと地に付いた葉っぱを見て私は顔を上げた。 シンはいまだ葉っぱと格闘をしているようで、そんな姿はあのころから全く変わってない。
『ホント、シンは私がいなきゃダメなんだから』
今も昔も、隣にいるのは変わらないから。 ジャーファルの声が聞こえてきて逃げようとしたシンの首根っこを掴んで、私は木から飛び降りた。
さぁシン王サマ!仕事の時間です!
願い事を幾つ数えれば
(一つでいいよ) (シンの隣にいたいだけだから)
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