自覚はないが、世間でいえば俺はバカと言う部類に当たるのかもしれない。 でもそれでもいいと思えるのは俺が自分思ったことに正直に生きているからだ。
ただ、一目見ただけ。
街中を何のことも無く歩いていると自分の胸元に誰かとぶつかる衝撃。 思いっきりぶつかったと思ったのは大きな壺のようなものを抱えた細い体の女の子だった。 よろりと揺れた体はボロボロな布きれを体に巻いただけのような今にも折れてしまいそうなほどに細くて。 それなのに抱えた壺には酒が並並と注がれているらしく俺の服に小さなシミを残す。
『ご、ごめんなさい。お召し物に、汚れが…!』
まるで生きるのを諦めていたような、そんな瞳をしていたのが印象的だった。 俺にぶつかったことに絶望の色すら見せているのは、なぜなのだろう。
一目見ただけで胸の中の何かを鷲掴みにされたような感覚。
泣きそうな表情で俺の服を拭おうとする姿と、ちらりとその足に見えた重苦しい金属の鎖の意味を俺は知っている。
「もしかして…奴隷の…?」 『…!』
きっと磨けば綺麗になるであろう顔に、とても大きな影が差す。 ただでさえやつれた様な表情をしているというのに、これ以上何を考えることがあるのか俺には分からない。
足元を必死に隠している様子だった女の子の背後から、随分と年の行った男がこの子の名前と思われる可愛い名を呼んだ。
「こんなところで何をしている!さっさと運ばんか!」 「も、申し訳ありません、旦那様…!」
バッと頭を下げて置き去りにされていた壺をまた抱える。
あぁ、やっぱり似合わねェな。 そんな細腕にそんな重そうなもん抱えてんのは。
「大変なご無礼、申し訳ありませんでした…」
もう一度頭を下げて俺の横を通り過ぎていこうとする細い体の肩を俺は思わず掴んだ。 え、とか細い声がして。
俺の正面、旦那様とか呼ばれてた男が怪訝そうな顔をしたのがわかる。 だがそんなことどうでもいい。
「…うちの奴隷に何か用ですかね?」
「あぁ、大ありだ」 「ほう?」
「この子は俺が貰う」
『……!』
一応俺だってこの国を支える八人将の端くれ。
言い方は悪いけど金はある。 でも言い方を変えれば、人を救うだけの権力と力がある。
こういう事にあまり関心を持たない俺だったが、彼女は放っておけなかった。
『わ、私なんかの為にこんなバカなこと…!』 「バカ…ねぇ、それでもいいと思うぜ?」 『なんで…!』
「女の子は、笑うもんだぜ?お名前ちゃん」
俺はこの子の笑顔が見たかっただけ。 泣きそうな表情をするお名前ちゃんの瞼に俺は口付けを1つ。
俺のバカな発言に少しはにかんだお名前ちゃんに、その為ならバカになったってなんだっていいんじゃねぇの?と思ってしまった。
バカな俺の手を取って
(そして世界を見よう) (それが怖くても、俺が手を引くから)
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和さんリクエスト 奴隷な子に一目ぼれをして助けるシャルルカン でした!
甘くなりきれなくてすいません…! でもシャルは普通にこういうことをしそうです。女の子には絶対紳士! ああいうチャラい感じの子は内面は誰よりもしっかりしてる子だと天音は思ってます リクエストありがとうございました!
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