シンドリア、という国に籍を置いて早数か月。 この国に…と言うよりはこの世界には確かにリーゼ・マクシアの面影はない。 本当に違う世界に、違う次元にやってきてしまったのだと思った時。不思議と涙は出なかった。 あちらに残してきた沢山の人や思い出だってあるというのに、私はなんて薄情なんだろうか。
でも、2つの世界の類似点や相違点を探すのは少なからず面白いところがある。
マナが存在しない代わりに存在するルフというもの。 精霊ではない、ジンという存在。 マナがなければ精霊術もない。魔法という概念。
ならば自分の存在とは一体なんなのだろうか。 疑問は止まないがそれもまた世界の相違点。
しかし
『王様が忙しいのは変わらないんですね』
慌ただしく部屋を去って行ったジャーファルさんの背中を見つめて、「見張っておいてください」と言われたこの世界の王の存在を見つめた。
「そりゃあ国を治める仕事だからな。そう楽には…」
『って言ってどこに行こうとしてるんです?』 「いや、ちょっと散歩を…」 『させません』
ガタリと席を立とうとしたシンドバッドさんの服を掴んでその場に引き留める。 今まで"王"という存在と何度か関わって来たがこんなタイプの王は初めてだ。
精霊の王、ミラ・マクスウェル。 カン・バルクの王、ガイアス。
思えばなぜこんな常人とはかけ離れた存在と親しくなったのか、今では思い出せない。 ただ、記憶に残る2人の姿はあまりにも今からかけ離れていて、どうにも実感がわかないのも事実。 ミラはともかく王らしい王であったガイアスとシンドバッドの温度差がまたその実感の無さを際立たせる。
『ふふっ』
「何がおかしいんだ?」 『ごめんなさい、ちょっと思い出したんです』
「…あちらの世界の事か」 『はい。とある国の王様で、ガイアスさんって言うんですけど』
思い出した記憶は脳内に酷く鮮明に再生される。
シンドバッドとは違った仕事ぶり。 しかし遊び心のあるガイアスまんじゅうの販売や、それについて熱く語った面があったこと。 打って変わって剣を持てばその右に出る者などそうそうおらず、まさに人を導く王の風格だった。
語り出すとお名前の口はなかなか閉じず、常時口元に弧を描いて次々に話が湧いてくる。
「…お名前はそのガイアス殿とやらが好きだったのか?」
『え?』 「いや、妙に楽しそうにそのガイアス殿の事を語るのでな」 『ガイアスさんはただお世話になっただけですよ?』
「…そうか」
大人しくお名前の話に耳を傾けていたシンドバッドが少しずつ表情を険しくさせていたことにお名前は気付いていなかった。 お名前の話を聞き終り、ぽつりと胸に渦巻いた蟠りを質問にすればあっさりと返って来る否定。
しかしなんだろう。いまだに拭いきれない、お名前の中にいるガイアスという存在が、羨ましいと思ってしまうのは。
「お名前、記憶は大事な道しるべだ」 『…そうですね。自分だけにしかない記憶がそれぞれありますから…』 「忘れろとはもちろん言わない。だが…」 『?』
「…少しだけでも、そのベクトルを俺に向けてくれると嬉しいな」
言葉と共に、シンドバッドがお名前の頭に大きな手のひらを乗せる。 その声とはにかむような表情にお名前の体は思わず顔に熱を集中させるのだった。
嫉妬、戸惑い
(今の私の頭を占めるのは) (貴方なんです)
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詩織さんリクエスト シン様の甘い話 エクシリアの世界からトリップした精霊の主人公で、主人公がガイアスの話をして嫉妬する話 でした!
個人的にエクシリアの世界観とマギの世界観をリンクさせるのが好きです…! 甘くなったかは…微妙なのです…が…! とっても楽しく書かせていただきました^^ リクエストありがとうございました! _
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