男に対し、それはそれは柔らかいであろう女体。
それに憧れを抱く男性は少なくないだろう。

そんな欲望に勝てず、アスタルテの胸に顔を埋める人物が一人。


『どうだ気持ちいいかー』

「アスタルテのおねえさんは優しい…ヤムさんと違っ『言ったらヤムに怒られるぞー?』
「…」


子供の特権、というか欲望に忠実というかなんというか。
女性ながら長身であるアスタルテに比べたらアラジンなんて赤子に毛が生えた様なものだった。

来るもの拒まずと体言したような状況を羨ましがる者もいただろう。
下の者の面倒を見るのが嫌いではないアスタルテはアラジンを構うことに癒しを得ている。
マギだと言うのも興味深かったが、それ以上にアラジンという人物自身が気になっていた。
近付いてみれば予想以上に懐かれた感があったが別にそれが嫌な訳ではない。


『私の胸ならいくらでも貸すぞ〜』
「わーい!」

「誰がお前の胸に」
『黙れ筋肉馬鹿お前には言ってない』


傍らにいたモルジアナが少しワタワタと慌てていた中、アラジンは至極と言わんばかりにアスタルテの胸に顔を埋めた。


『ほーら、モルジアナもおいで』

「い、いえ私は…」
「ほら見ろ困ってる」
『困ってない照れてるだけだし』
「あ」


マスルールの反論は問答無用と言わんばかりに抱き寄せられモルジアナまでアスタルテの腕に掻き抱かれる形となった。
あまりスキンシップを得意としないモルジアナには少々過激だったか。
固まって動かなくなったモルジアナの頭を撫で満足げに微笑むアスタルテ。

これまた満足げにアスタルテの腕から離れたアラジンがふと窓の外を見て声を上げた。


「あ!アリババくんだ!」
『ん……?あれは修業中…かな?』

「…みたいですね」


マスルールとモルジアナにはすでに耳で判別できていたであろう、シャルルカン師弟の修業。
互いの剣で相手を弾き、斬りかかる。
シャルルカンの方が上手なのは素人目でも一目瞭然だ。

しかしながらキン、と剣と剣が交わる音は嫌いではなかった。
あの独特の空気感、臨場感。高揚してくる体を押さえるのは難しい。

しばらくその光景を眺め、モルジアナを抱えていた腕を離した。
ガッと窓枠に片手片足を掛けたアスタルテの上着をマスルールが掴む。


「どこに行く気だ」
『見てわかるでしょ』

「アリババの邪魔をするな」
『邪魔じゃない、指南だ』
「……」


いつもの茶化し顔ではない、真面目な表情にマスルールは無言で上着を解放した。
自由を得たアスタルテは窓から飛び降りる。
モルジアナもアラジンもマスルールもそのままの様子を見守ることにした。

上空から降ってきたアスタルテに驚いたのはシャルルカン達も同様でアリババも目を見開いて手足を止める。


「アスタルテ…!?何しにきやがった…!」

『なに、ちょっと兄様の弟子の実力が気になっただけ』
「お、俺ですか?」


そう、と槍を愛用の片手に表情は厳しくなっていく。
しかしどこか楽しそうな気配も読み取れる。



『確かにアリババくん、君は良い素材だけどまだまだ甘い。兄様もそれを生かしきれてない』
「んだとぉ…!?」

『アリババ君。一度私と手合せ願おう。それではっきりさせる』

「…上等じゃね―の……」



シャルルカンにも言い分がある。
しかしそれを証明するてっとり早い方法はアリババとアスタルテを戦わせて弟子であるアリババを勝たせること。
とんとん拍子で話が進んでいく展開にアリババは訳が分からなくなったがバシンとシャルルカンに背中を叩かれ戦うしかないのかと剣を構えた。

アスタルテも本気、と言わんばかりに槍を構え高らかに叫ぶ。



『さぁバルバッド第三皇子、アリババ・サルージャ!私と御一手願おうか!』



ぜってー負けんじゃねーぞ!とシャルルカンは全力でアリババに叱咤する。
王宮の窓の外からどうなるのだろうかとアラジンもモルジアナもマスルールもその様子を見ていた。







一騎当千

(アスタルテさんとアリババさん…どっちが強いんでしょう)
(…まぁアスタルテだろうな。不本意だが)
(…不本意なんだね)

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