アスタルテには全くと言って言いほど男っ気がない。
寄ってくる男は多かれ、アスタルテ自身が全てを突っぱねているからであるがそれは年頃の女としてはどうなのか。
仕事一筋槍術一筋、言っていたら女として生き遅れてしまうだろう。


「アスタルテってなんで男つくらないのさ」


自前で用意した焼き菓子を口に放り込みながら言ったのはピスティで。
それに同席していたヤムライハ、当の本人アスタルテは思わずテーブルの中心に置いてある菓子に延ばそうとしていた手を止めた。


『…ピスティのお茶しようはロクな事聞かれないと思ってたけど…まさか男とは』
「なにさロクなことって」
「そうよピスティ。世の中男なんかいなくたって魔法さえあれば生きて行けるわ」
『槍さえあれば』
「やや、それはヤムとアスタルテだけだって」


顔前で手を振りながら2人の言葉を否定する。
この2人、まず考えがおかしい。
本人達がなんと言おうがおかしい。
他の者に聞いても10人中10人がおかしいと答えるだろう。


「2人とも美人なのに勿体ない」
『ピスティも可愛いよ』

「…そういうことサラッと言っちゃうのはシャル似だよね〜」



「『やめて寒気するから』」



「あぁ…そう」


シャルかわいそ、という気持ちが半分と面白いという半分。


「じゃあ好みの男とかは?なんなら紹介しちゃうよ〜?」
「そういえばアスタルテの男の人の趣味って聞いたことないわね」


視線がジッとアスタルテに集まる。
シャルルカンには好きな女の子を鍛錬所に連れ込むという恥滞を晒していたがアスタルテの色恋沙汰の類は聞いたことがない。

アスタルテは同じた様子もなく焼き菓子を手に取った。
それを口に放り込みもぐもぐと咀嚼をする。
問いには答えずしっかりとその味を味わうとアスタルテはうーんと悩んでから一言。



『私よりも強い人』

「「え?」」
『圧倒的な力で私を満足させてくれる人がいい。それ以外はどうでもいいかな』

「…顔は?」
『別に』
「性格は?」
『普通でいい』
「地位は?」
『特に』

「ジャーファルさんとかは?」
『…う〜ん……』
「マスルールとk『ありえない』


きっぱりと吐き捨てて、もう一つ菓子をひと摘まみ。
さっぱりと言い切ったアスタルテはそれを口に咥えて立ち上がった。


「どっか行くの?」

『兄様と修業』
「…色気ないね」
『なくて結構!あ、ピスティ今の情報量として今度酒用意しといてよ』
「お酒?別にいいけどなんで?」

『シン様と約束』

「あ!ずるい私も!」
『ヤムは?』
「じゃあお邪魔するわ。いつか決まったら言ってよね」
『はいはーい』


ごちそうさま、と手を振りながらアスタルテは部屋を後にした。
嬉々として槍を携えていく姿を見て残された2人は落ち着いてお茶を啜る。

互いが顔を見合わせて一息。
そしてアスタルテの出て行った扉を見つめて口を開いた。



「…アスタルテに釣り合う男なんて…」
「この世で数えたら片手で足りちゃいそうだよねぇ」



彼女の実力を知る2人はアスタルテに内なる思いを秘める男たちを哀れに思った。
どうせこの先も先程言った通り強い男意外に振り向くことはないのだろう。

果たしてどうなることやら、ヤムライハとピスティは大分山の小さくなった焼き菓子を頬張りお茶を啜るのだった。





勇往邁進

(8人将並の力であの容姿だもんね〜)
(勿体ないわよね…あの子ったら結婚できるのかしら)
(ヤムも人の事言えないっしょ)

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