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『シン様シン様』
「どうしたアスタルテ?」
『今ってスパルトスいない感じなんですか?』
「あぁ。スパルトスなら商船の警護についているぞ」
『…そうですかー……』
ジャーファルとの仕事を終えたアスタルテが足を運んだのはシンドバッドの元。
残念ながら賭けに負けたり相当乗り気な時でなければシンドリアの仕事を手伝う気は全くなく、シンドバッドの労苦は減らない。
正確にはジャーファルの労苦かもしれないが、まぁそれはさて置き。
山積みの仕事を尻目にスパルトスの在状を確かめたものの返ってきた答えは残念な結果に終わった。
「なんだ、会いたかったのか?」
『手合せ願おうと思ってただけですよ。一槍使いとして』
「…成る程な……」
『ついでにあの人、顔合わせると面白いんで』
スパルトスの女性に対する扱いはたどたどしい事この上なく、アスタルテにはとても面白いものらしい。
それに加えていつも関わっているシャルルカンと顔自体は瓜二つ。
なのに手のひらを返したような扱いをされるのがアスタルテから見た面白さに繋がっている。
「…あまり苛めてやるなよ」
『わかってますって』
反省の色をまったく見せないアスタルテに、スパルトスに対して多少可哀想と思ったのは秘密だ。
「それにしても手合せとは真面目だな」
『だって8人将で槍使うのってスパルトスだけなんですもん』
「…そういうことか」
『はい』
エリオハプトでも随一の槍使いであるアスタルテ。
ただ単に実力だけでは相手になるものはいる。
だが槍でその実力に均衡するものはそういない。
唯一相手になるスパルトスは不在。
むくれるしかないないがそんなことで我儘を言うほどアスタルテも子供ではなかった。
「そういえばこの前はジャーファルと手合せをしていたな」
『あー、はい。結構やるんですよジャーファルさんとは。仕事と食事賭けて』
「…スミにおけんなジャーファルも」
『?何か言いました?』
「いいやなにも。ならどうだ?俺と剣でも交えんか」
『生憎私は槍一筋なんで』
そういうところが強情なのはヤムライハやシャルルカン同等なのだろう。
それが良いところでもあるのでシンドバッドはそうか、と咎めることもなく話しを切る。
まぁスパルトスが帰ってきたら一応報告ぐらいはしてやろうと思っていると代わりと言ってはなんですが、とアスタルテが口を開いた。
「?」
『今度どうです?一杯』
杯を傾ける動作をしつつ笑う。
最後まで言わずともわかるその動作。
シンドバッドも思わず漏れた笑みを抑えきれずアスタルテと2人笑い合う。
酒を酌み交わす酒宴。
「ほぉ…ならば用意は任せたぞ」
『お任せあれ』
これから悪戯をする子供に見えなくもなかったその光景。
ジャーファルさん仕事また溜まらせちゃったらごめんなさいねーと思いながらも欲望に忠実な心に逆らうことはできず、アスタルテは頭の中で計画を立てるのだった。
奔放自在
(この前あっちでいい酒仕入れたんで)
(ほう、楽しみにしているぞ)
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