ここ数日。
熱いと言うには少し印象が違うがとても視線を感じているのは気のせいではない。
彼的にはバレていないつもりなのだろうか。

アスタルテ的にはバレバレな視線を感じながら、くるりと後ろを振り返ればさっと視界から消える人影。


『……言いたいことがあるなら出てきたら?リューちゃん』


いい加減疲れた、と腰に手を当ててため息を付けばゆっくりと姿を現す"リューちゃん"こと白龍。
その表情は決して柔らかいものではなく神妙な面持ちをしている。
元から柔らかい表情と硬い表情の高低差がある白龍の面持ちに驚きはしなかったものの瞳に影を落とす理由に心当たりはない。

真面目な顔で見つめられれば真面目になるのは半ば反射的だ。
元は垂れている瞳でキッと見つめ返せば白龍は拳と掌を合わせぺこりとお辞儀をする。


「気付いていたのですね」
『私が気付かないとでも?』
「…そうですね、貴方はそういう人だ」


白龍の言うそういう人、とはどういう人だろうか。
アスタルテは近付いてくる白龍を見つめ返し自分より背の低い白龍の頭に掌を置いた。


『そう怖い顔しない。で、要件は?』


聞いてみると一瞬柔らかくなったと思った表情がまた引き締まる。
何かしたかと思い返してみたが思い当たる節が見つかるはずもなく。

白龍の言葉を待っていれば頭い乗せていた手の隙間から覗く表情が一層険しくなった。


「……先日のジュダル殿との話についてです」

『…いつの先日?』
「貴方ならわかっているでしょう?」
『リューちゃんそんな意地の悪い子だったっけ』


人の上げ足を取るとはなんとも白龍らしくもない。
だが茶化し気味に言ってもアスタルテはわかっていた。
彼女が自分で言った通り白龍の指し示す先日がいつか分からない程アスタルテはバカではないからだ。

思い返すのはあの日の胸糞悪いもやもやした気持ちと嫌に脳裏に映るジュダルの笑み。
シンドリアと自分が密接に関わっている確信はある。
しかしどのような関係であるかはジュダルの言葉からは全く想像もできず何も信用はできないでいた。

本当に自分の憎むべき相手なのかもしれない、だがそうでないかもしれない。

表裏になった感情がぐるりと頭を一回転して動かなくなった。


『リューちゃん、ジュダルの事嫌いだもんね』

「…そういう問題ではなく」
『わかってる』


白龍が何が言いたいかわからないわけではないがあくまでもアスタルテのペースで話は進む。
それがアスタルテのやり方であり自分を保つ術でもあった。


「貴方にとってシンドリアは…!!」

『ストップ』


声を上げようとした白龍の口元に立てた人差し指を添える。
物理的に声を上げること止めさせられた白龍が押し黙るがアスタルテは表情を一切崩さない。

ただ、瞳のなかに芯のある光と揺れる光が見えた。


『それは私が確かめなきゃいけない』


自分の目で
自分の耳で
自分の心で

確かめなければいけないことは己自身で、それがアスタルテの心だ。


『心配してくれてありがとね、リューちゃん』
「アスタルテ殿…」

『私は大丈夫』


根拠のない言葉。

それでも自分に言い聞かせるようにアスタルテは白龍に背を向けた。
もう変に視線送らないでね、と吐き捨てて去ろうと思った瞬間、手首に熱を感じる。


「…それでも俺は、貴方の味方です」

『………ありがと』


白龍の声はしっかり耳に入ったが、白龍の方へ振り向くことはできなかった。
シンドリアの使者が訪れるのは

明日。




去る者は日日に疎し

(掴んだアスタルテ殿の手が冷たかった)
(それでも、きっとこの人は何も言わないだろうから)
(俺は気付かないふりをした)

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