話がある、と彼女にこうして呼び出されることは少なくなかった。
仕事柄そうせざるを得ない時もあればただの愚痴まで。アスタルテとの話は振り幅が大きく、私がそれに付き合うことになんの違和感も感じなかった。
時期も時期だ。事件の最中に呼び出される事など当然何か確信あっての事だとはわかっている。
しかし言い知れぬ違和感を感じたのも事実。

あの日のアスタルテは可笑しかったと、今ならば言える。

だが時既に遅し。
彼女はとうに狂い出してしまっていたのだから。



『今回の事件の主犯は私です』



まさか名乗り出て来るとも思っていなかった矢先の出来事。
根拠はなかった。でも私が単独で調べた情報は確かに彼女を指差していて。
いや、そうでいて欲しくなかったから言わなかったのかもしれない。


「…なぜそれを私に?」

『……貴方にしか…頼れないことがあるから』


最後、みたいな瞳に私を映すアスタルテの姿なんて、正直見たくなかった。

しかし、最後という事は間違っていないだろう。
私に自白してしまった時点でこうなる事はわかっていた。
アスタルテ的にはそれを望んでいたのかもしれないが。


『仕事、エリオハプトの分残っちゃうと思うので』

「…それだけではないでしょう?」
『ナルメスさんは、私がこうする事を知ってるだろうからこれを』
「辞任書、ですか」

『助けてもらった。あの人には迷惑はかけたくなくて』


まぁこうしてジャーファルさんには迷惑かけちゃってますけど、と痛ましい笑顔を浮かべるアスタルテ。


「…貴方らしくないですね」
『ははっ、やっぱり…そう思います?』


耐えきれなくなって自分の腕に彼女を閉じ込めた。
一度もそんなことをしたことはなかったが、彼女の体はこんなにも細かっただろうか。
いつも気丈に振る舞うアスタルテの姿は弱さなど微塵にも感じさせなかったというのに。

いざ腕に閉じ込めてしまえばこんなにも儚い。


「…約束しましょう。貴方の"頼み事"は守ります」
『……よろしくお願いしますね』

「ですが、1つだけ聞かせてください」


ぐっとアスタルテの両肩を掴んで少し体を離す。
この計画が終わるまで、きっとアスタルテは嘘を吐き続けるのだろう。

それでもいい。
自分には最初に真実を話してくれた。
それだけで私は満足です。

だから聞かせて欲しい。


「貴方はこの国が、この国の人々が…嫌いですか?」


せめて最後には本当の真実を。
見知った部下と同じ緑色の瞳。

この瞳に今まで、そしてこれから彼女は何を映していくのか。



『…嫌いな訳…ないじゃないですか』



そう言って静かに涙を流したアスタルテはジャーファルの腕を優しく振り払って背中を向けた。
大きな大きな傷跡を残した、小さな背中を。






両雄並び立たず

(大好き、大好き)
(だからこそ私は)

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