『アラジンくんはマギなのかー』
「うんそうなんだ〜」

『人は見かけによらないねぇ』
「おねえさんも見かけによらず強いねぇ」
『少なくともあのタラシ兄様よりかは強いよー』



「…まさか師匠に妹がいたなんて…」
「そういえばそういうことは聞いたことがありませんでしたね」



アスタルテは胸に飛び込んできたアラジンを悠々と受け止め、ほのぼのとしたオーラを放ちその頭を撫でる。

それを横目に地に伏せたシャルルカンを見てアリババが呟いた。
流石に敬愛すべき師匠に妹がいた挙句師匠がその妹にボコられただなんて。
若干のショックを隠せないアリババの呟きにアラジンを抱きしめながら耳をしっかりと傾けていたアスタルテ。


『師匠…?兄様が…?』


解せぬ、まさにそう言いたげな表情。


「おねえさん?」
『…ということはアリババくんは剣の…?』
「は、はい…指導してもらってます」

「なかなかいい師だぞシャルルカンは!」


シンドバッドの賞賛にアスタルテの眉間の皺が増える。
そこまで兄を嫌悪するか、とアリババは背筋に冷たいものが通り抜ける感じがした。
特に何をされたではなくただ単に寒気がする。
彼女の愛する獲物は槍、自分の獲物は剣。
それだけでどこか触れてはいけないところに触れてしまいそうで恐ろしいのだ。


『…まぁ…いい弟子が育つのはいいことだね』
「へ…?」

『それくらいは見てればわかる。アラジンくん、師匠はヤム?』
「そうだよ!」
『やっぱりね。で、モルジアナちゃんは……うん、まぁ…ファナリスだもんね…』
「……あの…」
『なに?』

「……先程からやけにファナリスに反応されるなぁと思って」

『あぁごめんね。モルジアナちゃんが悪いんじゃないの』


その言葉にシンドバッド、ジャーファル、ヤムライハは理解を示し、しょうがないと苦笑いを漏らす。
いい師匠はいい弟子を育てる、それを理解しているアスタルテがこうも反応を示すファナリスの存在。
正直、モルジアナからしたら気持ちがいいものではない。
理由を聞かなければ納得できることでもないので本人の口から理由を聞きたいとところだ。


『悪いのは……』


アラジンの抱擁に回っていた手が一瞬で離れこれまた瞬時に分裂した柄を組み立て槍頭を装着した。
目を見張るスピードで構えられた槍が向かった先。






ガキィン



『…こいつのせいだから』

「……随分な挨拶だな」
『うるさい』






金属と金属のぶつかる音がキリキリと鳴った。
アスタルテの槍の切っ先は背後に現れたマスルールを向いており持ち前の反射神経でマスルールは己の腕についている枷でそれを受け止めていた。

超速スピードで行われた攻防に3人は目を見開きモルジアナも反応できず、だが当の本人は冷静に武器を交わらせている。
正確にはマスルールは槍を受け止めているだけだが込められた力は相当なものだ。
力でマスルールに勝てるとは思ってはいないが均衡された力はアスタルテの力の度合いを示している。


「何しに来た」
『残念仕事でしたー。しばらくこっちに居座らせてもらうよ』

「……できるだけ早く帰ってくれ」
『…アンタの寝首欠いたらね』


キリキリと金属と金属が擦れ合う音が響く。
2人が纏う空気は実に不穏だ。


「…兄妹そろって彼とは反りが合わないそうですよ」


ジャーファルがモルジアナに耳打ちをした。
―それでか、アスタルテがファナリスに過剰反応するのは。
血は争えないというのか、目の前の光景を見て思わず納得してしまった。

鋭い目つきでマスルールを睨むアスタルテに、いつも通りの無表情を崩さないマスルール。

対局する2人の足元に潰されているシャルルカンを見て哀れに思ったのは言うまでもなく。
だがシンドバッドだけはその光景を笑い飛ばすように見学していた。






一期一会

(でも大丈夫モルジアナちゃんは可愛いから)
(…俺の弟子に変なこと吹き込むなよ)
(……やっぱりアンタが師匠か気に食わん)

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