どうやってここまで戻って来たか、街からの定かではない記憶。
イライラして、ムカムカして、でもどこか暖かいような変な感覚が胸に付き纏う。
付き纏う蟠りがアスタルテの足を重くさせ、見慣れてきていた筈の煌の城に足音を響かせる自分を気持ち悪くさせた。

こんな時は思いっきり誰かに全てをぶつけたくなる。
ただ一心不乱に槍を振るって全てを汗と一緒に流してしまいたい。

しかしこんな時に限ってそうは上手く事が運ばないもの。

相手をしてくれそうな相手が見つからない。
誰かに、何かにこの感情をぶつけて楽になりたい。


―私らしくない、私って何


変に渦巻くぐちゃぐちゃな思いを聞いて欲しい。
はっ、と漏れる息も声も耳を塞いで聞こえなくしたいのにそれを許さない自分がいる。


『…………っ、!』


ダンッと音をたてて側にある柱に拳を叩きつける。
そのまま握り込んだ拳から滲む赤い液体。

噛み締めた口の中にも少し鉄の味が広がった。


「アスタルテ?」
『……ジュダル…!』


それはただの偶然。
通りかかったジュダルが発見したアスタルテの様子は普通ではなかった。
取り乱しているという言葉が一番しっくりくる。
アスタルテを拾ってから、記憶喪失を事態が発覚しても一度もアスタルテが取り乱すことなどなかった。

鼻を衝く血の匂いがジュダルの口端を上げさせる。
取り乱したアスタルテが自分の胸に飛び込んで来てもジュダルはただ小さく笑みを浮かべるだけ。


『ジュダル…私は一体何なの』

「お前自分で言ってたじゃねーの。自分は自分だって」

『気持ち悪い。何も知らない自分が』


飄々と生きていたアスタルテから初めて聞いた弱音のような言葉。
弱音と言うには少し違うかもしれない。
しかし彼女には似合わない自己嫌悪の言葉は何かが歪み始めた証拠ともいえる。



『シンドリアは、私に一体何の関係があるの』



その言葉にジュダルは大きく笑った。

だから言ったのだ。
「お前は俺の玩具だ」と

そしてこれを待っていた。
アスタルテがシンドリアに意識を向けることを。
あぁ、彼女が面白く壊れる姿は見れるだろうか。


「教えて欲しいか?」


ジュダルの中に渦巻くのは狂気と子供のような純粋な興味。

少し震える手で自分の衣服を掴むアスタルテの背に腕を回し、その胸にアスタルテを抱きしめる。
この抑えられない笑みを見られてはいけない。
見られては全てが台無しになってしまう。


「シンドリアはなぁ…」


大きな弧を描いた口元が怪しく声を発した。



「お前の憎むべき奴らがいる国だ」



目を見開いて顔を上げたアスタルテ。
瞳が映したジュダルの姿がどんなものだったか、それは定かではない。

ただジュダルの視界の遠くに見えたのは、こちらを見てアスタルテのように目を見開いていた白龍だった。





苛政は虎よりも猛し

(お前は壊れゆく玩具)
(誰にも邪魔はさせない)

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