小さな紙に思いを綴る。
そしてその綴られた思いや美しい情景を歌にする、それが詩吟というものであるが。


『その年で詩吟とか…青舜オツだよね』
「やってみると面白いですよ。短歌を詠むだけでも面白いですし」


自分よりもだいぶ低い位置にある頭を撫でてみれば子ども扱いしないでくださいと返ってくる言葉。
青舜は少し背が低い事に加え顔が幼いのもあってどうしても子ども扱いをしてしまう。
アスタルテはパッと青舜の頭から手を離してその手元にある短冊を覗き込んだ。


『短歌ねぇ…青舜は書いたりするの?』
「そうですね。自作のものもあります」
『へぇ〜……』


短冊に少し崩れた字体で書かれた短歌の文字の達筆さがアスタルテには理解できなかった。
そういった芸術センスはあまりないらしい。
アスタルテが歓声を漏らせばアスタルテさんも一句詠んでみませんかと言われたがわからないからパスと一言。
文字を書くのは仕事だけで十分だ。


『何か考えながらものを書くのは苦手でさ』
「おや、書類は何か考えながらじゃないんですか?」

『あれは事務的な処理だから使う頭が違う』
「でもアスタルテさんならきっと良い詩が書けると思います!」


さぁ!と押し付けられる筆と短冊。
ちょっと待てと言いたかったが青舜の瞳には期待の念が込められておりこれを突き返すのも申し訳ない。

どうにもアスタルテは青舜や白龍、紅玉と言った年下の扱いに弱い。
あまり無下にすることもできずこうしてなにかと構ってしまうわけだが。
(その経緯でアスタルテ殿と2人が言うものだからややこしくなったのはいい思い出)


『詩ねぇ…』


齧ったこともないジャンルの頭を使うのはどうにも嫌いだ。
墨の滲んだ筆をくるりと回せば少し短冊に墨が跳ねる。
その時アスタルテの頬にも小さな墨の跡が残ったのだが気付いていないのかそれを拭う気配はない。


「難しく考えず、浮かんだことを文字にするだけでいいんですよ」
『それができたら苦労しないって』


青舜はそういう脳を使うのが得意なのだろうか。
世間でいう頭がいいというものとは使う脳が違うことは確か。


『ん〜……』
「…アスタルテさん、詩っていうのは不思議なものでですね」
『ん?』

「絶対にその人にしか詠めない詩っていうものがあるんですよ」
『………私にしか?』

「はい。その人でしか感じられなかったこと、その人にしか見えなかったもの
人間1人1人違うのですから考え方も十人十色。それが詩の面白い所です」

『……』


青舜の言葉を聞いて、アスタルテはぴたりと唸るのを止めた。
そして一度辺りを見回しアスタルテは筆を短冊に滑らせる。

何を書いているかは青舜には見えなかったが、文字を書き終えるとアスタルテは何も言わずに青春に短冊を押し付けて去って行った。


「…?」


何か変なことでも言ってしまっただろうかと何を書いたのか気になり、裏返された真っ白な短冊をひっくり返す。
そしてそこに書いてある詩に、青舜は思わず目を見開いたのだった。





宙仰ぎ

瞼に浮かぶは 淡い空

我が心ですら

知りもしないで






遼東の豕

(これがあの人にしか読めない、)
(どこか切なくなる詩)

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