ちゃら、と先日紅玉に買って貰った(というか半ば押し付けられた)ネックレスを明るい照明に掲げ、アスタルテはベッドに寝転がっていた。
なぜこんなに心がザワつくのか、理由はわからないけれど肌身からあまり離したくないという気はある。
前の自分はこういうものが好きだったのか、とも思ったがなんだか違う気がして。


『……まいっか。普通に綺麗だし』


身に着ける分にはなんの問題もない。
そうしてアスタルテは首の後ろに自分で手を通し、首元に揺れるネックレスを装着する。

輝く翡翠色と茜色。
金属のひんやりとした感覚を首元に感じ、まるでそれは首元に刃を突きつけられる感覚に似ていた。
しかしそれが少し気持ちいいと思ってしまう自分。一体なんだというのだろう。


『あ、リューちゃんに青舜』


何気なく覗いた窓の外に見知った人影。
アスタルテは面白そうだと真っ直ぐにそこへ向かって歩いて行く。

感じていた頭痛と葛藤はもう感じなくなっていた。





『おーい』

「!アスタルテさん」
「アスタルテ殿!」


アスタルテの声に、2人が互いに構えた棍を降ろすのが見えた。
李青舜に練白龍。
この煌帝国においてはなかなかの有名株2人だと言える。

ゆったりと気怠そうにすら見える様にアスタルテは2人に近付く。
普段は人には敬称として殿を付ける青舜に、さん付けにしろと言ったのは記憶に新しいことで。
自分の事をさん付けする青舜にアスタルテは辺りを見回して言った。


『青舜、白瑛はいないの?』

「はい。姫様は紅炎殿の所に」

『そっか、それでリューちゃんと鍛錬ね』
「はい」


青舜の主である白瑛。
彼女がここに現れるまでは2人の鍛錬を見ておくのも悪くないだろう。

そう思ってアスタルテはその場に小さな欠伸を噛み殺しながら腰を下ろす。


「アスタルテ殿は参加しないのですか?」
『んー……気が向いたら』

「アスタルテさんには是非、またご教授願いたいですね」
『青舜は2刀流だから私には向いてないよ』
「それでも十分の実力をお持ちですよ」
『褒めても何も出ないんだからねー』

アスタルテ殿、アスタルテさん、と慕われるのは気持ちとしては悪くない。
何かをしている間だけは余計なことを考えずに済むし、とアスタルテは再び鍛錬用の棍を交えさせる2人を見やる。


「あら、アスタルテじゃないですか」
『ん、白瑛やっほー』


聞こえた声に首だけ後ろに反らせてその姿を確認すれば相変わらず凛々しく美しい白瑛の姿がそこにあった。
2人は気付いていないらしい。カン、と棍の交わる音が声に交えて聞こえてくる。

白瑛はそんな2人の姿に一度くすりと笑うとアスタルテの隣に足を止めた。


『紅炎の話は?』
「終わりましたよ。アスタルテはあれに参加しなくても?」
『だって2人で十分楽しそうだし』

「楽しんでやるものではないと思いますが……あら?」


会話を止まったのは白瑛の視線が首元にある存在に気づいてから。
その視線に気づけない程アスタルテはバカではなく。
あぁこれ?と右手で持ち上げてみればまた金属の冷たさを感じチャラッと音を立てる。


「珍しいですね。貴方が自分を着飾るなんて」
『白瑛に言われたくないなー…白瑛ももっと着飾りなよ綺麗なんんだし。それにこれ、紅玉が買ってくれたの』
「あら」


自分の事は棚に上げ、白瑛はそのネックレスを見てアスタルテに告げた。


「とっても似合っていますよ」

―まるで、最初からアスタルテの為に作られた様に。


素直に褒めてくれればいいのに、白瑛の言い方は遠回しだ。
それでもありがと、と返していまだに決着のつかない鍛錬の様子を見ていると、無性に体を動かしたい衝動に駆られた。




水魚の交わり

(おーい、ちょっと混ぜて)
(はい!)(いいですよ)
(私今、すっごく喧嘩したい気分なの)
((え))

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