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騒がしい街並み。
行き交う人々の声はほとんどが右から左へと抜けて行ってしまうがそれが人の声だということはわかる。
ものを売る商業者の声や騒ぐ子供の声、たくさんの声が混じり合うと頭で糸をほどくのは面倒くさいもの。
「アスタルテと街に降りるのは久々ねぇ」
『だって私夏黄文嫌いだから一緒に行きたくないし』
アスタルテの隣にはいつもの赤い着物を着ている紅玉。
いつもなら王族である紅玉の従者である夏黄文が共にいるのだが、アスタルテが全力でそれを断ったのだ。
「夏黄文はいい子よ?」
『私は無理。なんか無理』
「ふーん…?」
『まぁこれは個人の意見だから気にしない気にしない』
どうにもあの夏黄文という人物は喰えない。
思考の中には絶対的に揺るがない気持ち悪い心が伺えてしまってどうにもアスタルテは好きになれなかった。
初対面の頃から彼に対し吐き気すら感じたこともある。
紅玉は初対面であぁこの子素直に感情表現ができないんだなとわかったから好意すら感じたものの、あの妙に自分を勘ぐった感情を剥き出しにされることはいただけない。
本人的には隠したつもりだったのだろうか。
しかし滲み出た嫌悪感はアスタルテには手に取るようにわかってしまう。
『あ、紅玉あの着物とかどう?』
「あら、それならアスタルテもこっちの装飾はどうかしら?」
『えー……私ジャラジャラしたのよりかシンプルのがいいなー…』
「…ならあっちは?」
案外、紅玉は普通の女の子だ。
アスタルテは最初王族と言うことで煌帝国の者にあまり普通の印象を抱いてはいなかった。
しかし蓋を開けてみれば紅炎を始めとし、癖はあるもののわかりやすいそれぞれの我を持っている。
過去のアスタルテがどんな者だったかを散策しているに当たってアスタルテが気付いたことがある。
簡単に言えば案外王族のような上の地位にいる者の方が自分に好意的に接しているという事だ。
下の身分の者には一部、どうやら好意的ではない目線がちらりと伺えることがあった。
「もっとアスタルテはおしゃれをすればいいのよ」
『う〜ん…買い物は好きなんだけど私着飾る方じゃないし』
「勿体ないわ。せっかく素材がいいのに」
『紅玉のが可愛いって』
「ほっ!褒めても何も出ないわよ!?」
『いや、私ホントの事しか言わないし』
さらりとこういう事を言うのはどうなのだろう、と少し顔を赤くした紅玉が服の袖で顔を隠す。
しかしその言葉が絵になるから狡いわとすら思う。
『…?』
「気に入ったものでもあった?」
『…あー……いや、ちょっと』
視線の先にあったのは翡翠色の宝石と茜色の宝石が埋め込まれたネックレスだった。
なぜか視線に入ったそれから目が離せず、アスタルテが足を止め紅玉も続けて足を止める。
透き通った翡翠と茜。
ずきりと頭痛が走り、でも目線はずっとネックレスを向いたままで。
「あら、綺麗じゃない」
『…』
「買わないの?」
『…お金持ってくるの忘れたし』
「もう!」
すると紅玉はアスタルテの視線の先にあるネックレスを手に取り代金を店の主に押し付けた。
おつりはいらないわ、なんてなんともセレブな買い物をした紅玉はそんな行動に驚いていたアスタルテの手にそれをこれまた押し付ける。
「はい!」
『え…ちょ…紅玉?』
「私からのプレゼントが受け取れないっていうの?」
『………はいはい。ありがとね紅玉』
「!べ、別に……その、……友達、なんだから当たり前でしょ」
もらったネックレスを天に翳し、光を反射する翡翠と茜を見つめ、アスタルテはもう一度紅玉に礼を言った。
不思議と言葉は勝手に出るものだ。
なぜだろう。こんなに心がザワついてしまうのは。
和して同ぜず
(紅玉…なんでそんな顔真っ赤なの)
(な、何だっていいでしょ)
(…そんなに友達って言うの恥ずかしい?)
(!)
(…うん、紅玉のそういう素直なとこ好きだよ)
(かっ簡単に好きなんて言うんじゃないわよ!)
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