驚くのも束の間、シャルルカンに向けられた槍は下げられた。
不敵に笑みを浮かべる姿は普段のシャルルカンのそれととても酷似している。


『こんな簡単に首を取られるなんて、腕でも落ちたんじゃない?』


唖然と様子を見守っていた3人もいい加減動き出したいところ。
だが状況が一向につかめていない今何をどう動けばいいのかわからず動きは停止したまま。
実質この状況を理解しているのはジャーファルとシンドバッドだけである。


「っていうか…!なんでお前がこっちにいんだよ!」

『やっほ、ヤム。久しぶり』
「久しぶりねアスタルテ!何か月ぶりかしら?」
『うーん…確か3か月ぶりくらいかなぁ…?しばらくは違うとこ飛んでたし』

「オイコラ俺を無視すんな!!」
『うるっさいなー…なんでって仕事以外なにか?』
「聞いてねぇよ!」


ヤムライハには慣れたようなやり取りを交わし、シャルルカンには気怠そうな対応をする。
この扱いの差は一体なんだとも思うがこれが普通なのだからしょうがない。

声を上げたシャルルカンに槍を持った彼女はえ?と声を漏らす。
傍にいるジャーファルにもシンドバッドにも気付いていたのかパッとそっちを振り向いた。


『ジャーファルさんは知ってますよね?』

「えぇ」
「はぁ!?俺聞いてないですよ!?」
「そりゃぁ今言いに行こうとしていたところだったからな!」

『挨拶が遅れたことをお許しください。お久しぶりです、シン様』
「あぁ。久しいなアスタルテ」


先程の様子とは打って変わってスッと足を引き胸に手を当て一礼。
そろそろ説明が欲しい、という視線が功を称したのかシンドバッドが彼女に手招きをする。
槍をクルリと大きく一回転させた後、柄の部分を3分割させ槍をコンパクトにまとめた。

そこからわかる特殊な槍の構造は彼女の槍に対する思いが読み取れる。
今しがた槍が最強といった気持ちはシャルルカンやヤムライハと同じなのだろう。


『シン様、この子達は?』

「紹介が遅れたな。アラジンにアリババくん、それとモルジアナだ」
「アラジンはマギで、アリババくんはバルバッドの皇子、モルジアナはマスルールと同じファナリスですよ」

『……ファナリス………?この子が!?』
「王サマの前でボケ面かましてんじゃねーよ!」
『う…っわ!ちょっとうっさい!』
「るせーバーカバーカ!」
『そっちのがバカでしょバーカ!』

「…………えぇ〜……?」


「で、こっちも紹介しよう!彼女はアスタルテ」
「エリオハプトの外交長官補佐であり……シャルルカンの妹です」

「「「え」」」


なんとなく予想していた出来事を改めて聞くと驚くものだ。
いつの間にやら隣に立っていたヤムライハも本当よ、と後付けをする。
あの低俗な喧嘩はどうにかならないかとジャーファルが息をついたがこうしてみると似ている。
容姿はもちろん言動も行動もなにもかもが。


『ちょっと!兄様のせいで私が変人扱いされるでしょ!?』
「どーせ変人だからいいだろ!もう遅ぇよ!」
『はぁ!?』

ドッ


鈍い音が聞こえて、シャルルカンの体が地に伏せる。
何もなかったかのようにアスタルテは振り返ったが3人はアスタルテ持っていた槍の柄が見事に鳩尾にヒットしていたのをしっかりと黙視していた。



『初めまして可愛い少年少女!私はアスタルテ。よろしくね』



ニコリと掌を返した笑顔に女の恐ろしさを垣間見る。
だがなぜだろう、その笑顔はシャルルカンに似てどこか憎めないものだった。






支離滅裂!

(でもいいねぇ可愛い女の子!ファナリスってのがあれだけど)
(手は出しちゃだめよ)
(やだなぁヤムも可愛いって)
(そういうことは聞いてないわ)

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