無くした記憶、今までの記憶

私は誰なのか。という哲学的な話を始める気はこれっぽっちもない。
もとから私はきっとこんな感じで楽観的だったのだろう。

海に浮かんでいた私を拾ってくれたジュダルはどうやら私を知っていた人物らしく、大人しく私はこの煌帝国に現在身を置いている。
というか、この煌帝国には私を知っている人が数人いたようだ。
私の名前はアスタルテ。そしてどうやら武人であったらしい。


『紅炎入るよー』

「…返事をする前に入るな」
『まぁそういう細かいことは気にしない。で?』


肯定の返事を貰う前に開けた扉に先には見慣れてしまった髭面の仏頂面。

―錬紅炎。
彼に渡された槍と言う武器は私の腕に馴染み今や私の体の1部でもある。
しかしこの煌帝国の人物は誰一人として名前以外の私に関する情報を私に教えようとはしなかった。

自分で思い出せということか思い出させたくないことでもあるのか。
まぁどちらでもいい。私が私であることは変わらないと思うし、ね。


「この前あいつに頼んでいた外交なんだが」
『あー新人入ってたって言ってたあれ?どうなったの』

「こうなった」

『……うっわ』
「立て直し頼んだぞ」
『はぁ!?ちょ、紅炎人使い荒っ』


渡された1枚の紙切れに書かれた傾くに傾いた外交の現状。
くっそこんなことになるんなら最初から新人なんかに頼まなけりゃいいのに…!


「使える人材は使うだけだ」
『尻拭いする方の気力も考えてよね』


与えられない情報の中私が見つけたもう1つの情報として、どうやら私はそれなりに頭がいいらしい。
いや、自画自賛しているわけじゃなくて。
特に外交の事に関しては無意識にでも頭が回る。

まさかこんな風にこき使われることになるとも思ってなかったけど。
ジュダルは私を外交官扱いするけど正確には現在の私は煌帝国の"食客"
食客として衣食住を与えられているので与えられた仕事はしょうがなくこなす。

ただ、その任される仕事が大体外交関係ってだけ。


『見返りは?』
「今度紅玉と街へ降りてもいいぞ」

『…なら許す』


外出もあまりさせてくれない紅炎からの許可が降りるとは。紅炎は紅炎なりにこの仕事が面倒だと分かっているらしい。
というか、ここの王家の人々はなぜか私を構いたがる傾向にある。
紅玉もその中の1人なんだけど今や可愛い妹分。

あの不器用な子に付き合ってられるのは今のところ私ぐらいかなぁ……。
(それが可愛いってのに周りの奴らはなぜ気付かないのか)



なんだかんだで顔が広く、それなりに頭が回り、それなりの実力を持った武人。

一体私は誰だったのだろう。

根本は変わっていないのにもう1人の自分が自分の中にいる気がして気持ち悪く思う。
思い出そうとすると時に頭をよぎる頭痛はなんなのだろう。




人生意気に感ず、功名誰かまた論ぜん

(あとこれをやろう)
(お、金平糖だラッキー)

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