幼いころから剣を振るう兄様の背中を追いかけてきた。
私は女だから、母様と同じようにそんな男の人の背中を見つめている所にいようって、ずっと思ってた。

そのことに何の疑問も持たず、家族の愛を受けて育ってきて。

父様の勇ましい背中も
母様の温かい背中も
兄様の幼いながらにたくましい背中も

みんなみんな、大好きだった。

この幸せが、ずっと続くのだと信じて疑わなかったあの頃の自分は純粋だったんだなぁと思ってしまう程にバカだった。
私の家族はバカばっかり。
15年前
兄様が7歳、私が5歳になったあの日。



『やだ!かあさま…とうさま…!』

「アスタルテ!」
『にいさま…!かあさまととうさまが…!』
「いいから逃げろ!」
『いや!!』
「早くしないと…!」
『いや!』
「オイ行くんだ!親父たちを無駄死にさせるつもりか!!」

『ぜったいいや!わたしここにのこる!かあさまたちと死ぬ!』

「ふざけんな!!」

「アスタルテ…」
『!かあさま!しゃべっちゃ…しゃべっちゃだめ…!』



泣きわめく幼き私。
しかしなんで私は先に気付いてしまったのだろう。



「死ねぇええぇえええええ!!!!!」


「シャルルカン…!!」
「え…?」

『にいさま!!!』



ゆらりと背後に立ちはだかった黒い影。
煌めく刃に兄様の揺れた瞳は今でも忘れたことがなかった。



『っぅ、あ……!』


「アスタルテ!!!!」



背中に焼けるような痛み。
気付いた時には体が勝手に動いていたから。

誰かを庇って怪我をしたのは、後にも先にもあの日だけだったかもしれない。

私の体はすでに横たわっていた父様と母様の間に倒れ込む。



『に、…さま』

「アスタルテ!っ、アスタルテ!」



もう誰の背中も追いかけられなくなるのが本当に恐ろしくて、
それでも必死に伸ばした手は届かなかった。














そして意識が戻った時


私の目の前には1人として血の繋がった家族はいなかったのだから。













たった1人になった私は生きるのに必死だった。
両親が亡くなったのは、周りが必死に隠そうとしてもわかってしまったから。
その事実を受け入れるのに何度自殺を覚悟したかもわからない。

私はあの賊たちが憎くてしょうがなかった。
全てを波のように攫って行ったあの海が。
今すぐにでも殺したくてしょうがなかった。

感情が芽生えたのは、10歳の話。

ならばまずは武術だと、武器を取ろうとして。
でも、どうしても剣を選ぶことはできなかった。


『(兄様………)』


あの背中が、いなくなった背中が
どうしても脳裏にちらついてしまうと。


しかし私が最初に手に取った武器は、剣だった。


その脳裏にちらつく面影を逆に自分の心の支えにしようと。
そして自分の糧にしてやろうと。
10歳の決断にしては随分なものだったと思う。

現外交長官、ナルメスさんに力を認められ15歳で外交長官補佐に就任。
そんな若者の出世に周りがいい顔をするわけもない。
でも私はその場所を譲れるほど大人じゃなかった。

だから、先に言っといてやった。




『私はいつか人を殺します』




それでもいい、と事情を知ったナルメスさんは私を受け入れてくれた。

そして改めて知った外交での無情さ。
貴方が、兄様がシンドリアで八人将として剣を振るっているという事実。


ただただ、頭によぎった言葉は1つ




"裏切り"




そして私は、血に染める武器を槍へと変えた。









同床異夢

(そこで笑う貴方が)
(初めて憎いとすら思った)

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