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「ジャーファル」
「なんですか?」
「今日はあそこの外交長官補佐殿が来るんだったな」
「えぇ。彼女がやってくるそうですよ」
「期間は?」
「さぁ…毎度毎度業務を終えてからは気まぐれですので今回はどうでしょうね」
「はっはっは。こちらとしてはいつまでもいてくれてもいいんだがな」
「それではあちらが困るでしょうに…」
「まぁ彼女は優秀な外交長官補佐だからな」
「…彼にも見習ってもらいたいところです」
「ところでこのことをアイツ知ってるのか?」
「知らないでしょう。まともに仕事なんかに手を付けてないでしょうし」
「そうか」
日常茶飯事の光景といえば日常茶飯事。
ヤムライハとシャルルカンの睨み合い、子供のような罵倒のし合いに攻防。
そんな師匠の光景を見守るのもまた日常茶飯事となってきてしまった今日この頃、アラジン達はそれを見守っていた。
「ヤムさんたち今日も元気だねぇ」
「…いつまでこの討論って続くんだろうな」
「さぁね?」
既にこの光景には苦笑いしか漏れない。
アラジンは笑っているがアリババは苦笑い、モルジアナは相も変らぬ無表情。
魔法を使うアラジンも剣を使うアリババも、そこまでのこだわりはない為争う理由はないのだ。
確かに自分の愛用しているものが1番だと思いたいのは心理なのだろう。
気持ちはわかるものの身を削ってまで主張するまでではない。
「でも、それだけ誇りがあるってことじゃないですか」
「まぁ…それがわかってるから見守ってられるんだけどな」
2人は剣だ魔法だと言い合いながら頬を引っ張り蹴りを入れている。
どちらも譲れないものがあるからこその討論。
どちらが劣っているかではない、どちらが勝っているかの結論は誰にも出すことはできないのだが2人は争い続ける。
「行き過ぎれば少々迷惑ですがね」
「ジャーファルおにいさん」
「!珍しいですね、ジャーファルさんが仕事もなく……息抜きですか?」
普段は仕事に追われているジャーファルが手持ち沙汰で中庭に現れるなど珍しい。
流石のジャーファルも肩の荷を下ろしに来たのかと思えばいいえと首を振る。
ぎゃあぎゃあと言い合う2人はジャーファルの存在には気付いていないらしい。
ジャーファルは1つ息を付き、この後にやってくるであろう波乱に少々頭を悩ませる。
「シャルルカンに伝言です」
「師匠に?」
「えぇ」
これまた珍しいこともあるものだ。
アリババは子供レベルの喧嘩を続行する我が師匠を見やり驚いた。
「キミたちもここで見てるといい」
「うわぁ、シンドバッドさん!」
「シン…あなたまで来てどうするんです」
「いやぁ…彼女に会うのは久しぶりなんでな…あぁマスルールも呼べばよかったか」
「やめてくださいややこしい」
「見てるって…何をだい?」
「このままここにいればわかるさ。面白いものが見れるぞ」
面倒くさそうなジャーファルと対極に楽しそうに笑みを浮かべるシンドバッド。
会話の内容から誰かが来るということらしいがそれをシャルルカンと何の関係があるのか。
シンドバッドが言うには答えは見ていればわかるらしい。
どういうことかもまたわからないが様子を見守っておくことにした。
「剣こそ最強だ!」
「魔法こそ最強よ!!!」
その時
『その討論待ったーーーーー!!!!!!』
太陽を背に王宮の城壁に立つ人物が1人。
顔を上げても光の反射で人物の特定をすることは不能である。
その手には1本の長い獲物。
敵かと思ったがシンドバッドは来たか、と楽しそうに笑いジャーファルはやれやれと息をついた。
『剣も魔法も邪道!真の最強は槍!!!!』
城壁から降り立った人物は獲物の切っ先をシャルルカンに向け、不敵にほほ笑む。
「お前…!」
目の前で槍を構える人物が誰か理解した時、シャルルカンは思わず目を見開いた。
そしてアラジンたちは理解する。
少し無造作に括られた透き通るシャルルカンと同じ銀色の髪。
人よりも健康的に焼けた肌。
露出多めの、だが裏を返せば動きやすい服を纏い身の丈に似合わない槍を構えたその人物は。
『久しぶりねぇお兄様?』
彼女はシャルルカンの妹であると。
全ての推測にそう時間はかからなかった。
兄妹揃って愛する獲物を構える姿は瓜二つだったのだから。
天上天下唯我独尊!
(やはり来たか!)
(…荒れますね……)
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