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心がざわつく訳はいつだって胸にある。
アスタルテが王宮から外に出ていく際には雨は止んでいた。
『シン様』
「なんだアスタルテ?」
先にマスルールとシンドバッドが話を終えてマスルールが出て行った後。
雨が止んだ外を見上げるシンドバッドに声をかけるアスタルテ。
その手にはいつものように愛用の槍が携えられている。
世間を騒がせる"通り魔"を捕まえるために。
王宮でも騒がれる対処に追われていたものの、ここまで長く手を焼くとは思っていなかった。
シンドバッドが振り返り目が合ったアスタルテの瞳には強い光が宿っている。
『今日、全てが終わります』
「…犯人が?」
『いやぁ…時間をかけてしまってすいません』
「いや…シンドリアに平和が戻るならそれでいいんだ」
言い切ったアスタルテにシンドバッドが安堵の息をつく。
ジャーファルに続き、アスタルテは信頼に足る人物だ。
八人将であるシャルルカンの妹であるということもあるが、何よりもその人間性は信頼に富んでいた。
エリオハプトとの外交が円滑なのはアスタルテの類い稀なる才能あってこそとも言えるだろう。
そのアスタルテが尻尾を掴んだというのだからもう通り魔事件に終わりは見えている。
『今日で平和が訪れますよ』
「そうか」
アスタルテがシンドバッドに背中を向ける。
今度はシンドバッドがアスタルテの背中を見る番だ。
『やっぱりシンドリアはいい国ですねー。…貴方のような王や部下に恵まれて』
思いっきり伸びをしたアスタルテの背中は、妙に悲しげだった。
『おっしゃー行くぞアリババくーん』
「はい!」
『よっしゃ、いい返事だ』
まるで犬のように着いて来た今日の相棒、アリババの頭をぽふりと撫でれば子ども扱いが若干気に食わなかったのか何とも言えぬ顔をしている。
『そんな顔しないの』
「…べ、べつに何にも」
『そんなんじゃいざとなってまともに剣も振るえないぞー』
「うわっ!」
今度は頭を撫でるどころか押さえつける形でアリババをねじ伏せるアスタルテ。
どうやらアリババはこうして外に駆り出されるのは慣れていないらしい。
まぁ無理もない。
剣を振るっていたといっても王宮剣術は王宮で磨かれたもの。
それ以降振るっていたのが研ぎ澄まされた鋭い刃だったとしてもそれをなかなか実践で使う機会はないだろう。
『緊張しないでいつも通り剣を振るえばいいって』
「…はい!」
「アスタルテ!」
『!ジャーファルさん』
アリババを弄るのも大概にし、よしいくかと意気込もうとした時かけられた声に2人が振り返る。
そこに立っていたのはいつも通りの文官服に身を包んだジャーファルがいて。
しかしその表情はどこか浮かない表情をしていた。
何も語らず、ただ間に流れる沈黙。
そしてアスタルテは笑う。
『後は、頼みます』
直後さぁ行くぞーとアリババを先導して、アスタルテは王宮を飛び出した。
やはりジャーファルの見たアスタルテの背中も、妙に悲しげだった。
怪力乱神
("後"が訪れるまで)
(残り数時間)
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