「…ックソ!!」


やりきれない気持ちを拳に変えて自室で酒を酌み交わすのはシャルルカンだった。

人の命はそう軽々しく奪われていい筈のものではない。
それを分かった上でなぜ自分の妹はあんなに冷静なのか。
一口飲んだ酒がまた体に熱を感じさせる。


ダンッ


先程扉に叩き付けた怒りの矛先は今度は無機質な自室の煉瓦の壁に向く。


「らしくないっスね。先輩がものに当たるだなんて」
「…俺だってそんな時ぐらいある。つかマスルール…勝手に入ってくんなよ」


音もない侵入者にシャルルカンが動じることはなかった。
また一口と喉に熱を流し込んでいく。

今日はやけに酒の回りが早い気がした。
いつもならばマスルールに付き合わせたところだが生憎今日は虫の居所が悪い。


「何か知らないんスか」
「何がだよ」

「アスタルテが……ああいうことに慣れてる理由を」

「……外交中じゃねぇの?外交だって一筋縄じゃいかねー事もあるだろ」
「それ以外で。あと先輩何か隠してますよね」
「………」


シャルルカンが杯を置いた。

確かに彼の言う通り、一国の中でアスタルテほどの地位になると普通でないことに襲われることは多いだろう。
故にアスタルテは槍の腕を磨いたと思われる上に口車はその辺の者より幾分達者である。
今まで歩いてきた道が普通だったとは思わない。

それはシャルルカンでもわかっている。
自分の妹だ。どんな道を歩もうとも止めるつもりはなかった、しかし。


「…これ王サマにしか言ってねぇんだからな……」
「…?」

「これは酒のせいだ」


半分ほど杯に残っていた酒を飲み干し、シャルルカンは言い訳を作る。
全てを喉に流し込み、高揚感と熱が頭に回っていくが今はもうそんなことどうでもよかった。

マスルールは静かに言葉を待つ。
そして口から離れた杯。
もう酒は空になってしまった。




「俺とアスタルテの両親はな、俺らの目の前で殺されてんだ」

「!」



忘れもしない15年前のあの日。
現在のシャルルカン22歳、アスタルテは20歳。

15年遡るとすればシャルルカンは7歳でアスタルテは5歳の話だ。


「アイツは"慣れた"なんて言うけどな……アレは絶対に嘘だと、俺は思ってる」
「………理由は」

「勘」


ただの勘ではなく、血の繋がった兄が思う妹への勘。
しかし人の命は軽くないことを知っているアスタルテがなぜあんなことを言ったのか。
嘘だと分かっていてもアスタルテの真意が掴めない。

だからあの部屋を飛び出した。
アスタルテが、あの日目の前で散った肉親の命を軽視しているだなんて思いたくもなかったから。


「…今のは酒のせいで言った独り言だからな」
「ッス」


酒の力を借りて吐き出した自分の過去は苦いモノしかなくて。

思い出しても吐き気がする。
だがしかし、今のアスタルテを形成している過去に確実に自分が関わっているのだと思うとやりきれないものがあり、シャルルカンはまた拳を握るのだった。






追根究底

(知りたくも思い出したくもない過去は)
(まぎれもない現実なのだから)

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