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『っあー胸くそ悪い』
この世の中はイヤにも無情なもので。
誰に何が降りかかろうとも日はまた昇る。
幾多の命が散ろうとも、何があっても、だ。
「寝不足ですか?」
『慣れちゃったとは言えあんなもの見て気持ちよく寝れるほどマトモな神経してませんって』
ふぁ、と欠伸をかみ殺し、アスタルテはジャーファルに昨夜の事を纏めた書類を提出した。
死亡確認一名
スラムの女性、年齢推定20後半
死因は斬殺
「…女性は初めてですね」
『でも朝にまた1人、遺体発見らしいです。男』
頭をガシガシとかき乱し窓辺にうな垂れるアスタルテ。
「俺たちももっと早く着いてれば…せめて手がかりぐらいあったかもしれねぇってのに…」
『気にするな…とは言わないけどさ、気にし過ぎもダメだぞアリババくん』
「…そうですね…最初に着いた私とマスルールさんでも間に合わなかったんですから」
「でもよ!」
アリババに続き、声を上げたのは感情を押し殺すことのできなかったシャルルカンだった。
現場に着いた時には既に辺りは血まみれ。
ファナリスの嗅覚を持ってして特定しようにも、なんとも用意周到なことか辺りは火の粉に包まれていたのだ。
『…一応聞くけどマスルールもモルジアナも…見た、聞いた、感じた、何でもいいけど何かなかった?』
「すいません…煙のせいで何も…」
「同じく」
『…そう』
「何でアスタルテはそんな冷静なんだよ!」
『慣れちゃったから。あと耳元で叫ばないでうるさい』
顔色一つ変えず、アスタルテはシャルルカンをあしらう。
その反応が気に入らなかったのか、シャルルカンの表情が険しくなっていき、次の瞬間バンッとけたたましい音を立てて机に拳を叩き付けた。
「ざけんな!」
言葉をアスタルテに吐き捨て、シャルルカンは部屋を飛び出した。
何も言わずにそれを背中で見送るアスタルテ。
―慣れてしまった。
アスタルテは簡単にそう言ったがその言葉の裏に隠された本当の意味にシャルルカンは気付いていない。
静まり返った部屋の中。
マスルールは静かにアスタルテの背後に立ち普段は絶対にしないであろう、アスタルテの頭に手を置いた。
「らしくないな」
『なにが』
「泣きそうな顔して何が、か?」
『…うるさいバカ。泣いてない』
下を俯いたアスタルテが静かに足を動かした。
目指す先はたった今シャルルカンが出て行き、開いたままの扉。
1人1人とすれ違っていく、その表情は誰にも伺えない。
しかし、アスタルテがジャーファルとすれ違った時。
ジャーファルの手のひらに小さな小さな紙切れが押し付けられた。
誰にも見えないように押し付けた紙切れ。
アスタルテの背中を見届け、ジャーファルもまたそれを誰にも見えないように開いた。
―今夜、あなたに話があります
雑然紛然
(……アスタルテ?)
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