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どんな人でも自分で貫きたい意思というものがあると思う。
自己中になれ、とまではいかないが自分の意思を持つことは大事だ。
だが自分の意思を主張すると
『兄様のわからず屋!絶対槍でしょ!』
「いーや剣だね!」
「あ、またやってるねおねえさん達ー」
既にアラジンたちにもこれが日課だと思われているらしい。
それ程までにこの討論は顔を合わせるたびに勃発し、争い合っているのだ。
ここにヤムライハがいたらまた加わることになるのだろう。
ヤムさん、今はいなくてよかったねとアラジン。その隣で苦笑いをするアリババ。無表情のモルジアナ。
極めたものに愛着が湧くのは当然のこと。
彼ら彼女らの右に出るものはいないのはそうそういないのではないか、そう思っていたのだがこの後の展開は予期せぬものとなる。
一向に熱の冷めない討論。
しかし今回はこの平行線の討論に一本違う線が引かれることとなった。
『じゃあ!私が剣で勝てば少なくとも兄様は私より剣を極めてないってことになるワケ!?』
「おーやってみろよ!!」
『やってやろうじゃないの!』
「今すぐ剣構えろ!」
『上等!!!』
今までになかったアスタルテの挑発は周りの者をおぉ、と驚かせた。
アスタルテが剣を使ってシャルルカンと戦うだなんて聞いたことがない。
あったとしても槍と剣のやり合いだったというのに。
「おーおーなにやら面白そうなことが始まりそうだな」
「シンドバッドさん!」
「へぇ〜アスタルテが剣かぁ…私も見るの初めてかも」
「ピスティちゃんだー!」
「…マスルールさんは…」
「連れてこられた」
「あぁなるほど」
ハンデはないよう、2人とも同じ剣を構えた。
もちろんシャルルカンの眷属器も使用不可能。
差が出るのは剣の腕のみ。
真剣な眼差しは互いに本気であることを伺わせる。
誰に何を言われずとも、始まりの合図は訪れる。
キンッ
「先手必勝!」
『ふ…っ!』
男女力の差は歴然だ。
まずは一歩押され気味なアスタルテがシャルルカンの剣を勢いそのままに受け流しバックステップでひとまず距離を置いた。
もう一度剣を構え直し鋭い一閃、激しい突きの応酬。
押しては引いて引いては押す。
互いに一歩も譲らない。
この長い時間は静かに、そしてあっという間に過ぎていく。
「へぇ…なかなかやるじゃねーの…」
『…兄様は知らないでしょ、私がどれくらい剣を使えるかなんて』
息継ぎの暇もなく繰り返される斬撃の合間に交わした会話は金属音に遮られ誰にも聞こえていない。
いや、それには語弊がある。
モルジアナとマスルールには聞こえていた。
『兄様がいなくなった日から剣を振るってた私の気持ちなんて』
「!!」
キィンッ
「しまっー…!!」
『勝負アリ』
気を取られたが最後。
真剣勝負に油断は禁物。それはわかっていたのに。
喉元に突きつけられた剣は確実に現実を突きつけていた。
ニヤリともクスリとも笑わない。
いつもとは違うアスタルテの顔に、シャルルカンは1度だけ見覚えがあった。
『兄様の負け!これで文句は言わせない!!』
しかし次の瞬間にはいつものアスタルテに戻っていた。
不敵に笑うアスタルテに目を見開いたシャルルカンに違和感を覚えた者がこの場に何人いただろうか。
シャルルカンがこの日思い出した昔のアスタルテの面影を忘れることはないだろう。
5年前、自分がアスタルテと離れる原因となったあの日のことを。
桑田碧海
(いやぁアスタルテは剣の腕も凄いものだな!)
(……)
(ん?どうしたマスルール)
(…………なんでもないっす)
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