完全に記憶が飛ぶのは久々だった。
飲み過ぎなんて滅多にしない。というか私の飲み過ぎの上限なんて人からしたらおかしいレベルだって自負しているぐらいだ。
今まで飲み比べは大体は私が勝ってきたし最悪引き分け。
こんな結果に陥ったことなんてなかったから自分でも何がなんだかわかっていない。

私はどうやって部屋に帰ってきたんだろう。

そしてここまで酔ったことなんてほぼないから何を口走っていたかもわからない。
ぐわんぐわんする頭を抱えて立ち上がれば足元はふらつく。


『…しまったなー……』


誰かに迷惑かけてなければいいけど。
ジャーファルさんに怒られるのは勘弁したい。
あれは本当に飲みつぶれた頭に響き、正直たまったもんじゃない。
(でもシン様が飲み潰れてれば回避できるかも…なんてね)

マスルールは……うん、会ったらぶん殴ろう。
とりあえずコイツと飲んでた時に潰れたのは確実だしな…。
審判をしてたピスティならあの後の私を知っているだろうか。
今日はどうせジャーファルさんを除いてみんな仕事なんてできないだろうから聞きに行ってやろう。

バタンと扉を開いた時。



『あ』

「あ」



驚くべきタイミングで私の拳を向ける相手が現れた。
完全に反射的に私の手が拳を作る。


『昨日はどーも』
「……なんだ起きれたのか」

『アンタの顔見て今完全に目が覚めた』


ただし胸糞悪い形で。
マスルール以外だったらまだマシな形でスッキリしただろうに一番嫌な形で目が覚めることになった。
まず第一にこいつに飲み負けたっていうのが腹立つ。
先に兄様相手にしてたとは言えこの私が負けるなんて…。

キッとマスルールを睨みつけてたらマスルールが息をついて背中を向けた。



「…どうやら昨日のことは覚えてないようだな」

『…は?』



覚えてない?何を?
私がコイツに言いたいことなんていつでも口に出して言ってるはず。

なら何かした?


「安心しろ。お前が覚えてなければ別にいい」
『こっちだって気になるでしょ』

「聞かない方がいい」
『なんで』



『「……」』



「あー!アスタルテじゃんおはよーっ!昨日はマスくんに運んでもらえたー?」

『…は?』


私が?コイツに…運ばれた…?
今まさに事情を聞きに行こうと思っていたピスティの登場に動揺が隠せないのと同時に聞きたくなかった衝撃の事実に顔が歪む。

昨日のこと…マスルールが言ってた昨日って……!



『コイツに運ばれるなんて屈辱…!!!』



うわあああ酔いなんて吹っ飛んだ…!



『マスルール今すぐ勝負!』
「は?」

「ちょ、アスタルテやめといたほうがいいよ」
『無理!今すぐ!』




「貴方たちそんな元気なら片付け手伝ってくれますよね?」




背筋がゾクリと凍りついた。

振り向かなくてもわかるこのこ声の主は…。
振り向きたくなくても振り向かないとダメですよね〜……。


『じゃ…』
「ジャーファルさん…」

「マスルールもピスティもアスタルテも…今すぐ全員手伝いです」


『「「はい」」』


あぁもうやっぱりこの人には頭が上がらないなぁ。
結局昨日のことは曖昧なまま今日は過ぎていった。

後にこの時、話を聞かなかったのが仇になるなんて知らずに。





遅疑逡巡

(ほら、キビキビ動いてください)
(…ジャーファルさん…私二日酔いなんですけど…)
(さっきまで元気にはしゃいでたでしょう…?)
(………はい)

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