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別に人が人を嫌うことが悪いとは思わない。
ただ、その理不尽な好き嫌いが誰かを傷付けるのだけは許せなかった。
正確にはその傷が生むであろう憎しみの連鎖が嫌いなのだ。
意味のない喧嘩は止めはしないしむしろ微笑ましいものだと思う。
「どうしたモルジアナ。上の空だぞ」
目の前で拳を交わすマスルールには悟られていたようで、手も足も止めた2人に会話が始まる。
修業中もずっと考えていた。
アスタルテが自分を見る目は少しばかり違っている。
少なくともモルジアナにはそう感じられたし、そう見えた。
そして改めて気になったのだ。
「…マスルールさんはアスタルテさんが嫌いなんですか?」
当たり前だがマスルールの表情は変わらない。
ただ、モルジアナの言葉に考え込んでいるように顎に手を当てた。
「嫌い…というか…」
「アスタルテさんは私にマスルールさんの事を同じファナリスとして重ねてるのにあんなに差があります」
「…女だからじゃないか?」
「確かにそうですが…それはマスルールさんがアスタルテさんを嫌う理由にはならない気がして」
性別が関係しているならそれは1つの問題なのだが、アスタルテのあの嫌い方に性別は関係ないように感じた。
ただ"マスルールだから"という理由が付いて回っている。
なんだかんだでアスタルテが嫌悪を見せるのはマスルールと、それとうっすらシャルルカンだけなのだ。
シャルルカンは兄妹という異性の間で嫌悪を覚えることがあったかも知れないが正直な話マスルールを嫌悪する理由はない。
ジャーファルはシャルルカンと同じく気が合わない、と言ったがそれにしては度が過ぎのではないか。
先輩と後輩という括りのマスルールとシャルルカンの間に歪みがあるのはモルジアナにも分かる。
しかしアスタルテとマスルールの間にそのような隔たりはない筈だ。
「…なんでだろうな……俺にもわからん」
マスルールも無言で考えてみたが、いつからあんな関係になったのか思い出せずにいた。
気付いたらあんな関係になっていたというのが一番近い感覚。
「だが…嫌いではない…気がする」
「!」
顔を上げたマスルールが放った言葉は意外なものだった。
感情を表に出さないマスルールにとって人の好き嫌いというのはいかなるものなのか、同じ人種のモルジアナにもわからないのだ。
でも、勿論モルジアナもアスタルテの事は嫌いではない。
今までになかったお姉さんの様で、接し方に戸惑うことはあれどいい人だと思っている。
そのせいか今マスルールが嫌いじゃないと言ったのは少し嬉しかった。
気持ちが一方通行でないなら和解の余地はある。
そう信じてスッキリした頭でまた修業を始めようと意気込んだ。
ビュン
バシッ
「オイこらマスルールなにモルジアナに手出してんだー!」
視界の端に飛んできたのはマスルールにしては手の平サイズ、凡人からすればそれなりの大きさの石。
真っ直ぐにマスルールに飛んできたそれを受け止め、声のした方へ目線を上げれば王宮の塀から覗くアスタルテがいた。
石を投げたのがアスタルテなのは明らかだがそれにしてもあのスピードで投げられた殺意すら感じられる。
凡人なら頭をかち割られていたことだろう。
表情を変えぬまま、マスルールは呟いた。
「…前言撤回。俺はあいつが嫌いだ」
この2人が和解する日は来るのだろうか。
モルジアナは一方的に罵声を浴びせるアスタルテと片手で投げられた石を砕くマスルールを見てどちらかが瀕死にないことを祈るのだった。
布衣之交
(このロリコンが!)
(誰がロリコンだ誰が)
(お前が!)
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