真剣な瞳が相手を見据える中、イラついた空気が一瞬自分に過ぎったのをアスタルテは感じた。
イラつきの原因は間違いなく、目の前で己に向かって剣を振りかざす兄。
いつもは魂の篭っている剣の重みが、今は全く感じられない。
体に染み付いた動きで剣を交え、しかしその瞳にアスタルテは映っていなかった。

怒りが頂点に達しギリ、と歯を噛み締め槍を握る手に全力を込める。
限界まで力を込めた槍で振りかざされた剣を弾くように薙ぎ払い、距離を詰めて首に切っ先を突き付けた。


『兄様、舐めてるの?』

「…ワリィ」
『自覚があるなら尚更話にならない。……何かあった?』
「……」


自分の非を肯定するシャルルカンはらしくもない、といった感じだ。
ヤムライハ曰く剣術馬鹿、そんなシャルルカンが剣にすら力が入らないだなんて相当の事だろう。
槍を下ろし自分が弾き飛ばした剣を拾いその場に座り込んだシャルルカンに差し出して声の鋭さを削って問うてみた。
しかしシャルルカンは剣こそ受け取ったものの顔を上げない。


「アスタルテ、ちょっといいですか」

『あ、はいジャーファルさん!』


こりゃ重症か、と問いただそうとしたら宮中から書類を抱えたジャーファルからお呼びがかかりった。
間が悪いのかいいのか、それはわからないがアスタルテはうな垂れたシャルルカンの頭に拳を置く。


『…さっさと整理付けてよね兄様らしくない』
「……あぁ」

『次、手加減したら許さないから』


タッと宮中に駆けていく妹の後ろ姿を見つめ、シャルルカンは呟く。






「…許さない、か」



「なーにシャルくん、お悩みかね」
「ピスティ」

「シャルってば、アスタルテがアリババくんとやり合ってから元気ないね」
「…気付いてんのかよ」
「ふっふん、私を誰だと思ってんの」



言っては悪いが無い胸を張り、得意げに笑うピスティにシャルルカンはため息を1つ。

自分がおかしいのなんかわかってる。
理由だってわかってる。

整理を付けろ、と言っていた辺りから考えるとアスタルテもシャルルカン自身が理由に気付いているのもわかっているのだろう。


「なぁピスティ。アイツが初めてシンドリアに来たのっていつだったか」
「アスタルテ?うーん…確か5年前じゃなかったっけ」
「……5年…たった5年だけなんだよ」
「…なにが?」


様子がおかしいシャルルカンにピスティの表情も変わった。

ピスティもシャルルカンとアスタルテの関係性は知っているつもり、だ。
その関係にしばらくの穴があったことは知っている。
だからこそ今のシャルルカンの5年だけという言葉に感じる突っかかり。



「5年前…アスタルテがシンドリアに初めて来たあの日から…いや」

「俺たちがもっと幼かったあの日から…アスタルテに恨まれてるんだろうな」



許さないという否定、今まで気にしていなかった分突き刺さる言葉の刃。
兄妹だなんて繋がりが生んでしまったのは余計に絡まりやすい鎖のようなものだった。








老驥伏櫪

(兄と妹)
(近くて遠い、そんな関係)

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