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張り詰めた空気の中。
長い槍と短剣の交わり放つ金属音は張り詰めた空気に鋭い花を添える。
しかし二人の武人の戦いに華など無用。
どちらが優勢であるかは一目瞭然であった。
息を荒げるアリババ、対してアスタルテは息一つ乱していない。
「(なんでこの人は攻撃してこない…!?)」
アスタルテはアリババの斬撃を促し、一定の距離を置く、それの繰り返しだ。
余裕そうにしている、という感じではない。
アリババから目を離さず一手一手先を読み確実に躱してくる。
その動きは今までに戦ってきたどの相手にも当てはまらず、しかし攻撃の手を休める訳にもいかない。
「(師匠とは全然違う!にしてもかすり傷一つ付けられねぇなんて…!)」
師匠であるシャルルカンにもなかなか攻撃は通らなかったが、妹であるアスタルテまでこうも強いとは。
血っていうモンは恐ろしいモンだぜ、と思いながらアリババはまた一歩アスタルテへと剣を構え、踏み込んでいく。
「(でもあの長い間合い……懐にさえ入り込めれば…!)」
スキを見て自分の短剣の間合いである懐へ入り込む、それを勝機と信じアリババは何度弾かれようとも剣を構える。
「はぁっ!」
キンッ
『っ…と』
剣を槍で弾いた時、アスタルテの両手が弾かれ懐にスキが生まれた。
「(今だ!)」
いける…!とアリババが剣を突き出した。
だがそう簡単にはいかない。
これを待っていたと言わんばかりにアスタルテはニヤリと口端を上げる。
『懐に入ろうとしたことは褒めてあげるよ』
「―っどわっ!?」
防御に徹していたアスタルテから転じて放たれた突きに迷いはなく、アリババは紙一重で避けたが完全に構えは崩されている。
勢いで地面に倒れ込んだアリババに畳み掛けるように振り下ろされた槍を短剣で受け止めればギリギリと金属の擦れ合う音が聞こえてくる。
『短剣、槍、魔法、体術、何にでも得意な間合いはある。
本来なら君のような射程の狭い短剣は私のような広い射程の槍は天敵だ。
懐に入り込まれたら対処に限界があるからね。』
力でなら負けないと思っていたアリババだが、その力に予想外にも押し負けていた。
上から重力を最大限押しに使っている。
不足分を補い、生かすのは戦術の基本。
ここまで顕著に表れる力の差にアリババは歯を食いしばった。
だがアスタルテの表情は余裕そうだ。
『でも"相手の短所を突きすぎるな"。あと苦行が表情に出るのもよろしくない』
「どういう…ことっすか…」
『まさに君の今の状態だよ。
相手の弱点を付こうと躍起になるとそれを逆手に取られる。
相手が強ければ強いほど相手は自分の弱点なんてわかってるんだから』
「あ…」
なるほど、という前にアスタルテがアリババから槍を背けた。
『最後に、手捌きに兄様のクセが移りすぎてて勿体ない。折角の王宮剣術なんだから』
こんなモンかな、アスタルテはヒュンと槍を一振りして矢尻で地面をついた。
ポカンと口を開けたまま唖然としていたアリババに今の鋭い目付きとは掛け離れた笑顔が降ってくる。
『質問は?』
「あ……ありません…」
『よろしい。じゃあ兄様、バトンタッチ』
「え、あぁ…」
唖然としていたのは師匠の方もらしい。
発展途上とは言えまさか自分の弟子がここまで簡単に妹に負けるとは思ってもいなかった。
王宮内でその様子を見守っていたアラジンもモルジアナも驚いてはいたがマスルールの表情からは相変わらず感情を読み取ることはできない。
何を思ってその様子を見ていたのか。
3者3様それぞれであったが一つ全員の頭にインプットされていること、アスタルテは強い。ということだけは共通であろう。
シャルルカンの肩をすれ違いざまに叩いて満足気な表情でアスタルテはまた王宮へ身を消していった。
明鏡止水
(…アイツ…)
(……師匠?)
(いや、なんでもねぇ)
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