『あっくん!あっくん!』

「なんだよ名前」
『あのね、私おおきくなったらあっくんのおよめさんになるの!』
「へぇ〜、名前がか?」

『あっくんは…いや?』
「だれもいやなんて言ってないだろ」
『ほんとう!?』
「あぁ」


『じゃあ、おおきくなったら"けっこん"しようね!』



それは私がまだ幼かった頃の話。
幼馴染のあっくんと河川敷の星が綺麗な夜空で交わした約束。

子どもの戯言だなんて笑われるかもしれない。

それ程までに私は彼との関係を疑わなかった。
生まれた時からずっと一緒にいて、自然と繋がった思いは恋人という関係になった。
友達にはバカップルだなんて言われて。
恥ずかしながら、どちらかというと嬉しいという気持ちの方が強い。

中学を卒業してから高校に来て初めての分岐。
あっくんと離れたことなんかなかった私にとって、あっくんがいない世界は随分色あせて感じたのを今でも覚えている。



『あ、三国くん!天城くん!車田くん!』
「久しぶりだな!」
「元気にしてたド?」

『あはは、勿論!みんなも元気そうだね』



雷門中サッカー部3年生の集い、なんちゃって。

大学生になった私たちは今日、久々に集まることにした。
三国くん、天城くん、車田くん、それにあっくん。
あっくんの姿はまだ見えないようだけど、既に私の目の前に現れた3人は中学校の時と何ら変わっていなかった。


「南沢はまだ来てないのか?」
『あっくん、進学校だから来れるかもわからないらしいから』

「…そうか」


ちょっと残念そうな3人。
かくゆう、私もその1人。

あっくんと離れ離れになってしまってからあっくんから私に連絡が来ることはなかった。
だから私からも送らなかった。

自然消滅、なのかな。
わからないけど私が未練がましいっていうのは確かかもしれない。
だって、私はまだあっくんのことが好きなんだから。

3人もそれをなんとなく察しているのかあっくんの話題はそこで途絶えた。


「それにしてももうこんなに時間が流れてるんだな」
『だよね。私なんかもう結婚できるもん』
「そういえばそうだド」

「中学時代は同じフィールドを駆けまわった仲なのにそんなに差がつくもんか…」
『えへへー』


そう、そんなに時は流れている。
もう未練たらしくあっくんを思っているわけにもいかないのかもしれない。



「お前に結婚相手でもいんのかよ?」

『へぇっ!?』

「おぉ!」
「南沢!」



突如降りかかってきた声に、素っ頓狂な声を上げてしまったけど、振り返る前に車田くんが名指しでその人の名を教えてくれた。

誰よりも会いたかった彼がいる。
いつもの通り変わらない自慢げな笑みを浮かべて私の後ろに立っている。
私が声を上げるよりも先に天城くんが思いっきりあっくんに飛びついていた。
下敷きになってしまったあっくんを救出することから始まって、あっくんは若干ぼろぼろだ。


「お前いきなり飛びつくなよ…ただでさえデカい図体もっとデカくなりやがって…」
「す…すまんド…」
『ま、まぁまぁあっくん落ち着いて』

「ったく…これじゃ決めるもん決められねーっての」

『え?』


ポケットから小さな箱を取り出したあっくんが、私の手を取った。
その動作を、私は知っている。


「で?」
『…もしかして……』

「結婚相手、俺以外にいる訳ないよな?」


幼いころ、この河川敷で交わした約束。




「今でも覚えているさ、あの頃の約束を…」










そうして僕らは大人になった


(相変わらずのバカップルか)
(俺らいること完全に忘れてるド)
(ま、しょうがないだろ)




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ちょこっと補足

南沢が離れてから連絡しなかったのは自分がもっと大人になってから名前に言うこと言おうと思ってたからです。
っていう入りきらなかった設定。

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