「名前先輩っ」
『きゃあっ!』


のどかな昼休みに似つかわしくない悲鳴。
座り込んでいた背後から突如抱き着かれた衝撃にあげた悲鳴に抱き着いた張本人は悪戯が成功したように笑う。


『かっ、狩屋くん!なんでここがバレたの…!?』

「やだなーそんなの追い掛けてきてたに決まってるじゃないですか」
『えぇ!?』


人知れず避難場所を探したというのに根本からバレていたようだ。
最近、名前は狩屋マサキからの過度なスキンシップに困惑していた。
故に昼休みを穏便にやり過ごす方法を探った結果、今日のように隠れるという行為に至った訳だが見事に失敗。
こうしてマサキに背後から抱き着かれ毎度の如く赤面することとなった。


『な、なんで狩屋くんは私なんかに構うの?』
「…面白いから?」

『え』


「嘘っす。名前先輩が可愛いから」



恥ずかしげもなく言われ、頬の赤みが増した。
両手で顔を覆い、マサキに顔を見られまいとするが耳まで染まった赤は隠しきることはできなかった。
そういうとこが可愛いんスよと言えば抱きしめていた体まで熱を持ち始める。


『そ、そう言う褒め言葉は葵ちゃんとかに言った方がいいよ』

「…は?」


思わず間の抜けた声が出てしまった。
名前的には至って普通の事を言ったつもりだったがマサキにしては違う。


「名前先輩に言うから意味があるんですって」
『無理に褒めなくていいのに…』


過ぎる褒め言葉はマイナス思考の至る先、名前はずんと落ち込んだ。
なんでそうなるかなとマサキは思ったがそんなところも可愛いと思ってしまった。
下を向く名前の体を反転させ、正面から彼女を抱きしめる。

マサキに熱が伝わりそうな程密着した体は名前の思考を止めるには十分な威力だった。

背中に回された腕に力が入り、抜け出そうにも抜け出せない。
なにがなんだかわからない状況のまま、マサキは口を開く。




「好きです」



『え…?』
「俺、名前先輩が好きです」




目を見開いた名前が顔を上げれば、いつも名前をからかう時のマサキの顔ではなかった。
一人の男としての表情。
それが冗談なんていう方が難しいだろう。
まっすぐに合った視線に嘘は付けなくて、唖然とするしかなかった名前に言っときますけど、とマサキが畳み掛ける。




「本気ですよ?」




囁かれた言葉に、名前は顔を真っ赤にしたまま返事をすることができなかった。
直後その頬にマサキのキスが落ち、再び名前は悲鳴になる事となる。








野良の熱はまだ覚めない

(か、か、狩屋くん!)
(先輩が可愛いのが悪いです)

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