届きそうで届かない、もどかしい思い。
形がないもの程伝えにくい。私はそう思う。

携帯電話の中にわざわざ保護をしてまで保存された片手で数えられるような数のメール。
今何してるの?今何を考えてるの?
言葉数の少ない彼の気持ちを私には察することはできない。
そして彼が今どこにいるのかもわからない。


『ガゼル様……』


ダイアモンドダストが、カオスが、
私の中の全ての世界が色をなくしてからもうどれぐらいたつんだろう。

そして私がガゼル様のことを何も知らなかったのを思い知らされた。

恋人だなんて調子に乗って。
隣からいなくなって初めてその存在に気付く。
バカな私。過去の自分に喝を入れてやりたい気分。

好きだって、言ってもらったあの時の浮かれ具合が今は腹立たしい。
ガゼル様にじゃない、他でもない自分に。
なんで私は与えられてばかりなんだろう。
なんで私からガゼル様に好きだと言えなかったんだろう。

押し寄せるのは後悔と愛おしさ。


―私ってこんなにガゼル様のことが好きだったんだ。


携帯電話を開けては閉じてある筈もない連絡を待つ。
唯一の連絡手段。
私からメールも送ったこともないし電話もかけたことはない。
ガゼル様の連絡はいつも一方的なものだったけれどそれが心地よかった。

そして愛されている実感がないということに対する恐怖を感じた。
隣に立てない、拠り所のなくなった私の思いは空を彷徨う。

はぁ、と大きくついた溜息。

瞬間に揺れた私の携帯電話に思わず電話を取り落としそうになってしまった。
画面に表示された名前に私は目を見開いて震える手で通話ボタンを押す。


『もしもし!?』
「私だが。なにをそんなにどもっている」

『ガゼル様…!』
「なんだ。たかが電話だろう」


声が震えるのが自分でもわかる。
久々に鼓膜に響いた声が涙腺に直接働きかけているようで既に声は涙声だ。


「まぁキミの考えていることぐらいお見通しだがな」

『え…』


電話越しにガゼル様が笑った。
その声もまた懐かしくて、笑われてるのに泣きたくなった。


「それしきの事で泣くな」
『で…でも…!その…嬉しくて…』


こんな時だけは素直に気持ちは漏れてしまう。

いつもこうだったらいいのに。
電話越しのガゼル様に届いてほしい。

心のどこかで必死に感じでいたのだろう、出てきた涙は止まらなかった。




「「そんな泣き虫でバカなキミに、これだけは言っておこうか」」



ガゼル様の声にハッとして。

電話越しじゃない。
声が聞こえる。




「私はいつでも君を想っている」





私もです、じゃなくて。
しっかりと私の言葉で、私の気持ちを。

振り返った先
今度こそ目の前にいる貴方に。





それが愛と口にした

(貴方が好きです)

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