外の世界は暗いというのにとある店の中は驚く程明るかった。世間勉強、だなんてもっともらしい嘘を吐き出したシャルルカンに名前が連れていかれたのは案の定、男の喜ぶ夜の店であって。


『シャルルカンさん。あの、眩しいです。周りの方達が眩しいです帰らせてください』
「何言ってんだ名前ちゃん!まだ始まってもないぜ?」

「…どうせこんなこったろうとは思ってたわよ」
「ついて来てよかったねー王様今カンヅメ中だし」
「それ狙ったんでしょあの剣術バカタラシ」


ヤムライハとピスティもその隣でため息をついた。
陰口など耳に入っていないのかシャルルカンは上機嫌で名前の手を引いて店に足を踏み入れていく。

八人将であるシャルルカンの登場に店が湧かない筈もない。

ワッとあがった歓声に目眩すら感じた名前の後ろからヤムライハとピスティが足を並べて入店。
更に騒がしくなった店内に女性にすら恐怖を植え付けかねないこの状況下で、シャルルカンに取られた手に力が入る。
それに気付いたシャルルカンはしっかり名前と目を合わせて大丈夫だと笑った。


「楽しく騒ぎながら美味しいモン食べてちょっと酒飲むだけだって!」
「アンタそれでちょっとにならなかった試しがないじゃない」
「そんなことねーっつの!なんだかんだでお前も飲むだろうが!」
「はぁ!?アンタよりかはセーブして飲んでるわよ!」

「名前あっち座ろー」
『え?ほ、ほっといていいんですか?』
「まぁすぐ収まるって」


店内なのにも関わらず、仲が悪いのに場所は関係ないらしい。

慣れたようにピスティは名前を安全な席に促して酒と料理を注文していた。
そしてピスティの言った通り口論もすぐに収まり、勢いよくそっぽを向いた2人が真反対の席に別れどかりと怒りを示すように座る。
真反対、ヤムライハはピスティと名前の座るテーブルに身を収めシャルルカンは店の店員にちょっかいをかけ出している。


「まったくあのバカ!名前ちゃん、あっちに行ったら駄目よ!何されるかわかったもんじゃないわ」


ヤムライハがイライラしているのは丸わかりで、所謂やけ酒というやつだろう。
テーブルに運ばれてきた酒を飲み出すのはとても早かったように感じる。
やっぱりとピスティはそれに付き合ったが、酒に抵抗が拭えない苗字はノンアルコールの飲み物で事を繋いでいた。

折角4人でお店に来たのにな、と酒を飲み続ける2人を尻目に名前はシャルルカンを気にかけていた。

ヤムライハがピスティに愚痴を開始したころ、名前はこっそりと席を離れる。
彼の周りにはもちろん女の人がいたのだが快くシャルルカンの隣の席までの道を開けてくれた。
頑張ってね、なんて言葉も飛んできたが何を頑張るのかは名前は全くもって理解していない。
杯片手のシャルルカンの隣から少し離れた位置ににちょこんと腰を下ろす。
同時にあれ、とシャルルカンが声を上げて杯をテーブルに置いた。


「…あっちで飲まなくていいの?」
『えっと…どうせですし、シャルルカンさんと飲みたいなって』


嘘じゃないけど、なんだか言うにしては恥ずかしい。
カッと熱が顔に集まってきてそれを誤魔化すように酒の入った容器をシャルルカンに掲げた。
まさか名前がお酌をしてもらえると思ってもいなかったシャルルカンは目を見開きながらも気分が良さそうに杯を手に取る。


「結局、名前ちゃんは飲まないの?前は勢いよく飲んでたのに」

『…忘れてください』


飲んでくれればまた抱き着いてもらえるのになという下心全開で聞いてみたものの飛んでしまった記憶がよほどトラウマなのは一筋縄ではいかないようだ。
まぁ名前が20を越して気兼ねなく酒を飲めるようになるのを楽しみにしておこう。
そして20になる名前がどれだけ綺麗になっているかを楽しみにしておこうと下心が加速する。

お酌をしてもらうのはいい。
普通の酒が度を増して美味しく感じるし男としての醍醐味の一つだ。
1人気分よく飲んでいたはいいが、名前の杯はヤムライハ達のいるテーブルに放置されているのに気付き、シャルルカンは一旦杯を置いた。


「名前ちゃん、せめてなんか飲み物もらったら?」
『そうですね…』

「お客様、それならこちらをどうぞ!」
『え、あ、ありがとうございます』


辺りを巡回していた店員の女性からすかさず無色透明の、おそらく水だと思われるものを差し出され、小さくお辞儀をしてありがたく受け取る。
気が利く店員さんだなぁと感動し、受け取ったそれをを喉に流し込んだ。



「(…ん?)」



突如、シャルルカンの鼻に強いアルコールの匂いがついてスン、と鼻を鳴らす。
店全体からアルコールの匂いのする中、少し匂いを嗅げば近くに根源があるという確信があった。


「名前ちゃんそれお酒……!」


時既に遅し。
名前も周りの匂いのせいで自分がもらったのが酒だとは気付かなかったのだろう。
運悪く喉が渇いていた為、名前の口から離れた杯の中身は空。
酒の回りが驚くほど早い名前が顔を真っ赤にしてへらりと笑い出すのはすぐのことだった。


「………名前ちゃん」
『はい?』


"はい"が"ふぁい"になりかけている辺りもう駄目だろう。
しまったと思いつつもこれはもしやと身構えていたら案の定ふらふらとした名前はそのままシャルルカンの腰に倒れ込む様に抱き着いた。


「う、おっ」
『…しゃるさん…腰細いれすね』

「(念願のハグ…!)」


今回はこの行為を妨げるものはいない。
ヤムライハも酒で潰れているしジャーファルやシンドバットはこの店にすらいないのだから。

一応ピスティとヤムライハの席を伺って。
よし、と意気込んだ後シャルルカンは名前の腰に手をまわした。


「…えい」

『ん………?』
「(膝乗せ成功…!)」


力の抜けきった小さな体を軽々と持ち上げ、己の膝に乗せ、内心でガッツポーズ喚起。
持ち上げられた事で離れた名前の腕が宙を切り、物足りなさそうな表情でじっとシャルルカンを見つめている。


「名前ちゃん?」
『しゃるさん…』


ぎゅ、と名前の赤くほてった細い腕が首にまわり、体が密着する。

気持ちいい。何がって、柔らかいあの感触が。
流石に声に出せば酔っているとはいえ引かれることは間違いないだろう。
ポーカーフェイスを気取って心の中では下心でいっぱいだ。

首元に埋まる髪がくすぐったい。
心地よさすら感じるこのくすぐったさが胸にまで浸透していく。


「…王サマが羨ましいぜ」
『…?しんどばっどさん…?』

「名前ちゃんは王サマ一筋だもんな」
『……』


言えば無言で赤くなる名前。
そういう所が可愛いんだよなぁと思いながらもちゃっかり名前の腰に腕をまわしてみる。


「名前ちゃんさぁ…」

『はい?』




普段なら全力で拒否されるものの酒の入った今なら、と。



「このまま俺のモノになる?」



―バレたら後で王サマに殺されちまうな。
酔いに酔った今夜だけ、本音の戯れ事を。








それでは誘惑の準備を

(名前ちゃん?)
(…)
(あー…寝ちまったか)

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