自分自身なんか信じられない。
かといって信じられる人なんか私の周りにはいなかった。
私が存在している意味を見出だすことが出来ない、悲観的な悲劇のヒロインだと笑うだろうか。

いや…こんな陳腐な話、物語にもなりはしないだろう。

誰もいない、綺麗な川が一望できる河川敷で私は一人鞄を開け、筆箱取り出す。
普段は勉学に励む為の道具の一式詰まった筆箱。
余計なものを持ってくるのが嫌いな私の筆箱には空洞が多い。

そんな筆箱に手を突っ込んで、手探りで目当てのものを探す。
突っ込んだ右手の手首には見慣れてしまったリストバンド。
何度となく、このリストバンドの下を痛め付けた動かぬ証拠。
ゆっくりと、見つけたそれを掴んで筆箱から取り出す。
カチ、カチ、と親指で押し出せば光る刃。

何の解決にはならないのに、私はこの道を選んでしまった。

リストバンドを外し、鋭利に尖るカッターの刃を手首に宛がう。
力を入れずともスッと手を引けば薄い皮膚が切れ、じわりと赤い血が滴った。
緑色の芝生に、赤い血液。
ほぼ補色関係にある二色は互いによく映えた。

そう見えたのは私だけかもしれない。
でも、私には互いが互いに引き立て合うこの関係がとても美しい光景に見えて仕方なかったのだ。




「なにしてんだ!!」

『…京介……』




再び私が手首にカッターを当てた時、横から伸びてきた手によって私の次の行動は阻まれた。

幼馴染の、剣城京介。
京介は昔から一緒だった。
あのフィフスセクターってところに行ってしまうまでは。


『京介は、変わったよね』

「は?」


サッカー部に入って、松風くんに会って。
一度私の元から離れた京介は、また昔の京介に戻ってきた。



『変わらせてくれた人があんなにいたんだもん。そりゃあ変われるよ』
「お前…」


『でも私にはいないの』



ぐっとカッターを握る手に力が入る。
同時に私の腕を掴んでいた京介の手も強まったのがわかった。
それでも私の口は止まらない。

滲んだ血がまた一滴、腕を伝って地に落ちる。



『私を見てくれる人が』
手を引いてくれる人が

『私を助けてくれる人が』
愛してくれる人が



そんな人が側にいてくれたら、変わったのかな。


「俺はそんな頼りにならないか」
『え……』

「ずっとお前の傍にいるのに、そんなに力になれないのか」
『京……』


涙すら枯れたと思っていた私。
京介にまっすぐ見つめられて目頭が熱くなってくる。

ねぇ京介、私は今からでも変われる?




「もう少し俺を頼れよ」





京介を頼ってもいいの?と聞くと当たり前だろと返す京介に。
頬を伝う涙と共に、カッターがするりと私の手を滑り落ちた。





歪曲した日常に終止符を

(この傷が消えた時)
(あなたの隣にいられますように)

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