受信メールが1通。
誰だろうとベッドに転がりながら携帯電話を開いた日曜日。

メルマガだったら消去するのとか面倒だなと受信ボックスを開いた瞬間、私の片手に持っていたアイスがボトリと落ちた。
目を疑いたくなったけど、このメールの送り主はそんな嘘をつくような人じゃない。
だから余計に頭が混乱して。
落ちたアイスなんて気にしないまま私は携帯電話だけを引っ掴んで家を飛び出していった。



"月山国光に転校する"



篤志からのそんなメールを嘘だと思いたくて。

外はいつの間にか夏模様に変わりつつあった。
走れば走るほど迸る汗。
上がる息に自分の心の焦りを感じる。

篤志が転校する?月山国光に?
だってここはサッカーの名門の雷門で、篤志はエースストライカーでしょ?

走りながら電話をかけてもきっと私がまともに喋れないだろうからとにかく、とにかく早く篤志の家に。



『あつ、し……!!』



そんなのでお別れなんて嫌だ。

なんでもっと早く教えてくれなかったの。
篤志にとって私はどうでもいい存在なの……?

あれこれ考えている間に篤志の家の目の前までやって来た。
篤志の家は、私の家からは正直遠い。
その距離を感じさせないぐらいずっと色々考えてただなんて、と疲労とともに思ったがインターホンに手を伸ばすのが先だった。



ピンポーン



無機質な機械音。
この家のインターホンはカメラが付いてるから毎度毎度篤志がインターホンに出てくれた場合は無言で出てくる。

そのせいで時々家にいるかいないかがわからない時があるんだけど、とにかく。


「名前?」
『篤志!メール…!さっきの、メール……!!!!』

「……」


息が整わないままで紡いだ言葉はちゃんと伝わっているかはわからない。
言いたいことは沢山あるのに、咳しか出てこなくてもどかしい。

嘘だと言って欲しい。

でも、無情にも篤志の口から零れた言葉はまっすぐに私に突き刺さった。




「ホントだけど」



折った膝に両手を置いて俯いていた私が顔を上げると篤志は特に表情を変える訳でもなく私の目の前に立っている。


『…どうしてそんなに余裕そうなのよ』
「別に一生の別れってわけじゃねーだろ。いざとなればこうして会えるしな」

『それでも……』
「寂しいってか?」
「……」


じゃあ篤志は寂しくないの?
まだ息が詰まって言葉にできなくて。

唖然としている私に追い打ちをかけるかのような篤志の言葉。


「俺には会いに来るなよ」
『!?…なんで!?そんなに私と別れたい…?』

「ちげーよ」


そうまで言われたら嫌われてるとしか思えない。
泣き出しそうになる私の手をパシリと掴んだ篤志が、目線で私を射抜く。


「俺がお前の前に胸張って行けるようになるまで、名前には来ないで欲しいんだよ」


目の前が篤志の着ていた私服のTシャツの色で埋まる。





「いつか絶対迎えに来るから」





あぁもうそんなこと言われたら余計に泣き出しそうになっちゃうでしょバカ。

―嘘なんてついたら許さないんだから
私は悪態を付きながらもその胸に顔を埋めた。

迎えに来るまで意地でも待っててやるんだから。








扱いベタなラブソング

(今まで俺が嘘ついたことあったか?)
(…ない)
(だろ?)

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