※表裏一体夢主













長く伸ばした赤く燃えるような髪の毛は名前のトレードマークだ。
量も多いのかポニーテールで縛ろうともなかなか言うことを聞かないトレードマークはある種面倒なものがある。


『剣城少年』
「なんスか名前さん」

『さて、どうこの髪を結えば涼しくなると思うかね』


名前が気怠そうに机に肘をつく姿は珍しい。
気温の起伏が激しいこの時期、そうではなくとも名前の髪は見ただけでも暑さを倍増させる。
暑ければその視覚的にも暑苦しいスーツを着替えてきたらどうですかとも言おうとしたがそんなこと言ったら面白半分でここでスーツを脱ぎかねないので言わなかった。

そんなこと聞かれても知るかと普通なら言ったであろう剣城だが名前相手に何も言わないという答えは許されない。
だがしかし、同じく髪が長い剣城でも男というだけで髪への考え方は違うだろう。


「無理じゃないですか」
『それじゃ元も子もないだろう』
「というか俺に聞かないでください」

『君は毎日しっかり綺麗に髪をセットしているだろう?それなりに色々知っていそうだと思ってな』


まぁ知らないならしょうがない、と名前は髪を結っていた黒いリボンをバサリと解く。
瞬間散らばる赤い髪に剣城は目を奪われた。
毛先まで全く絡まっておらず、遠目でも手入れがしっかり行き渡っているのがわかる。


『ん?』


思わず目を逸らしたくなる情景。
そしていつも見ているポニーテールではない名前。

意識していなくとも剣城はなぜか顔が赤くなるのを感じた。


『…なんだ、見かけによらず随分ウブなんだな』
「……余計なお世話です」

『まぁ中学生男児としては普通なのだろう。この名前さんに免じて許してやろう』
「許されなくていいです」
『…ほほう?』


ガタリと髪を解いた名前が席を立ち、剣城に近付いて行く。
針金の入ったリボンを弄りながら近付いて来る様は何かを企んでいるかのように怪しい。


「…なんですか」

『いーや別に?』


肩にかかった髪を払い距離を詰める名前に剣城は息を飲んだ。
笑いながら何をするのかがわからないところが名前の怖い所だ。
この流れにおいて変なことをするのかと言われれば否、なのだが剣城にとって名前がすることは全て変なことに値する。



『安心したまえ、ただ髪を括るだけさ』



名前が髪を頭上に束ね出す。
ただしいつもとは違う、ポニーテールではなく所謂横部分で髪を括るサイドテールと言われるもの。

手際よく慣れたように一本一本を梳くように手櫛で丁寧に髪を纏めていった。
名前がその仕草をしているからか括るまで邪魔になるリボンを咥えているのが妙に妖艶で艶っぽい。
確信犯でやっているのか天然なのか、それは本人にしかわからない。
名前の場合は8割ほどが確信犯、だが残りの2割程度は天然なのが恐ろしいところ。

言っている間に結われた髪はいつもと印象を変えさせた。


『さぁ、これでどうだ?』

「どう…って…!」


興味がなさそうに顔を背けていた剣城が顔を上げた時に見えたのは今まで髪に隠されていて見えなかった、名前の白いうなじ。
こちらは確信犯、わざと名前に見えるような角度に立ち位置を構えていた名前はやはり性格がいいとは言えない。

男のくせに女性に何もアドバイスをしない君が悪いんだぞ、と内心で笑いつつその笑みを顔に出しながら名前は剣城にほほ笑むのだった。



『君も物好きだね』







甘美な毒に酔いしれて


(ほらほら顔を上げてごらん剣城少年)
(…嫌です)

(全く、可愛いものだな中学生というのは)
(…名前さんも中学生でしょう)

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