『わぁ…!』


耳に煩いほどに響く沢山の人の声と陽気な音楽。
まるで小さな子供の様に目を輝かせている名前に隣にいた南沢がフッと息をついた。


「遊園地ぐらいで騒ぐなよ」
『で、でも!遊園地ですよ遊園地!』


ずいっと南沢へ詰め寄り自分の遊園地への高ぶりをアピールをした。
2つ年下と言うだけでこうも無邪気なものか。
南沢は諌めるように頭を撫でて名前を落ち着かせる。


『それに……南沢さんとのデート、ですし……』


楽しみじゃないんですか、と頬を膨らませる名前に妙に愛らしさを感じる。
そんな名前の額にキスを落とし、真っ赤に押し黙った小さな手を引いて南沢は遊園地への入口をくぐった。












「早速南沢さんが名前に手を出したようだ」
「やっぱり付いてきてよかったな」
「このままだと名前が南沢さんに攫われかねねぇぜ」

「っちゅーか、このままじゃオレらがケーサツに捕まるんじゃね?」
「…同感です」

ベタ中のベタ。
茂みに扮したサッカー部2年生5人。
(とは言っても内、浜野と速水は興味本位とストッパーで付いてきただけ)
南沢が名前とデートをすると言う情報をどこからか得てこうしてつけてきたわけだが周りにはバレバレな事には気付いていないらしい。


「おい入るみたいだぞ!」
「よし…遅れを取るな!」

「…はぁ」


浜野の言葉は完全にスルーだったようだ。
もう言っても無駄なら最終的には止めるしかない。とため息をつき速水は駆けていく他のメンバーより一歩遅めについて行った。

前方に見える2人をロックオンしながらバレないよう隠密に、そして素早く尾行を続行。


『あっ!あのぬいぐるみ可愛いー!』


パッと初めに名前が足を止めたのは遊園地の広い道の中に設置されたアミューズメント。
南沢もそちらに目を向ければ受付である女性が笑顔で手を振っており、その手には大きなクマのぬいぐるみが抱えられている。


「こちらのぬいぐるみはキックターゲットのパーフェクト景品となっております!そこの彼氏さん、彼女の為に一肌脱いでみては?」


どうやら既にお膳立てはされているようだ。
9つのボールをで9つのパネルを抜いていくキックターゲット。
やってみなければ勝手はわからないが仮にもサッカー部のエースである南沢ならきっと容易くこなしてしまうことだろう。

自分の願いではどうかはわからないが南沢に祈願するように視線を向けてみる。



『南沢先輩……』

「はいはい。やってやろーじゃねーの」
『ホントですかっ!?』


無邪気な笑顔に順応な犬のような姿が重なる。
うん。まるで犬のようだと思いながら南沢はもう一度名前の頭を撫でて金を払った。





「くっ…カッコよくプレゼント作戦か…!」
「ちくしょう南沢先輩あざとい」

「……ハンカチ噛まないでよ見苦しい」


影でそれを見守る…もといストーカーを続ける5人。
視線の先では南沢が軽くボールを蹴り感覚を慣らしている。

傍で期待の眼差しを向けながら南沢を見つめている名前は5人には気付いていないようだった。


『南沢先輩頑張ってください!』










「……ソニックショット!!!」


「「「「「は!?」」」」」



『え?』






相当な破壊音をたてて1つのボールが茂みを直撃した。
名前は気付いていなかったが南沢は完全に気付いていたようだ。

南沢にしてはらしくないミス、名前はそう思っているようだが5人はノックアウト。



『どうしたんです?南沢さん』

「足が滑った。安心しろ、ちゃんと取ってやるから」



その後南沢は8球で9枚のパネルを抜いて景品を取って帰った。
笑顔でお礼を言う名前に、南沢は満足気な笑みを浮かべたがその笑顔の裏に小さな犠牲があったことを名前は知らない。






笑顔の裏の犠牲

(…オレらなにしに来たんだろう)
(僕…止めに来ただけなのに……)


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