それは一夜限りの物語


名前は協会での祈りを終え家路についていた。
普段通る道がやけに騒がしく感じる。
誰もいない筈なのにおかしいとは思うがたしかに騒がしく感じるのだ。

歩く歩調を早め、早く家に帰ろうと思っているとそこに1つの人影が見えた。
人影、と言っても目の前に立っているのではない。
倒れていると形容するのが正しいその人物は美しいピンク色の髪をしている。
慌てて駆け寄り抱き上げてみるが瞳は開かず中性的な顔つきのため男か女かの判断もつかなかった。

とにかく助けなければ、とシスターの教えの下名前は自宅へとその人物を連れて帰った。





女である自分なら男でも女でも大丈夫だろう、と真っ黒い服を少し緩めてみると真っ直ぐな胸板が見え、男であることが判明した。
なぜ倒れていたのかはわからないけれど、濡れタオルと簡易な食べ物を用意しておこうとベッドの横で屈めていた腰を上げた時、くいっと後ろに自分の体が引っ張られるのを感じる。


「…美味そうな匂い」

『…っ!?』


音にするならがぶり

背後より首元に噛み付かれ、鋭く尖った剣士が肌に食い込む嫌な感触が体を駆け巡る。


『っあ…!ぅ………!』


力が抜けて行くのがわかる。
だが足を崩すことは許さないとばかりに腰と手を拘束し、彼から抜けることは許されない。

ほんの数秒だったか、数分だったか。
思考の止まった頭では時間を数えることも困難らしい。
首元の違和感が消えると力が抜けた体は必然的に後ろに倒れるが後ろに構えているのは少年だった。


「ごちそーさま」
『あなた、は……』


ぐったりと頭だけを少年の方に向ければピンク色の髪とは反対の澄んだブルーグリーンの瞳と目があった。
まさかと思い昔協会で聞いた話を思い出す。

ブルーグリーンの瞳、鋭く尖った牙。


『まさか…』

「思っている通り、俺は吸血鬼だ」


―吸血鬼
若い女の生き血を啜る恐ろしい西洋の鬼。


『な…なんで…!?魔除けはしてる筈なのに…!』


首に下げた十字架を握りしめるが目の前にいる彼にはなんの効果もない様子だった。
逃げなければ、と思うのに心に反して体は動かない。

それどころか更にキツく拘束され、先程血を吸ったであろう傷をペロリと舐められる。
思わず肩を縮こませれば少年はニヤリと笑った。



「やっぱり君はごちそうだった」

『ごちそう…?』
「あぁ。より清らかな心の女の血の方が美味いし俺たちの寿命は伸びるんだ」



熱を持った首筋に少年は唇を押し当てる。
甘く痺れる熱が首筋を駆け抜け名前の頭を麻痺させた。

なんとも言えぬ言葉にできない快楽。

とろん、と瞼が落ちそうになる名前を見て少年は笑う。




「俺は月に1度しかここに降りて来れない。…来月も君の所に来ていいか?」

『…はい……』
「君の名前は?」
『名前…』

「そう。名前」




もう1度首筋に軽く噛み付き、名前に甘噛みをする。




「俺は蘭丸。霧野蘭丸」
『蘭丸…?』

「また今度な、名前。楽しみにしてる」



蘭丸、と名乗る少年―否、吸血鬼は名前の視界の消える闇に溶けていく。
その場に倒れた名前の首筋には真っ赤な赤い花が咲いていた。








一夜限りの夢

(真っ赤に咲いた赤い花)


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