霧野蘭丸の印象的なピンク色のツインテール。
その象徴とも言えるツインテールが2つ。グランドに揺れているのが見える。
大小2つのピンク色は後ろから見たら瓜2つだ。
「霧野ー!」
「『なんですか?』」
「あー……悪い。妹の方だ」
そう。2人は兄と妹。
霧野蘭丸と霧野名前だった。
瓜2つな顔付きをしているが若干名前の方が目が大きく背が小さいぐらいの違いしかない。
2人並んでいれば見分けも付こうものだが1人単体でいると部員であっても間違えてしまうことは多い。
元より抽象的な霧野だが妹となるとこうも化けるとは、と名前が入学した当時は驚いたものだ。
部員内で瞬時に完璧に名前と蘭丸を見分けられるのは幼い頃から共にいた神童ぐらいだろう。
例の如く苗字を呼べば同時に振り返り混乱を振りまく。
三国が名前を呼びに来たとわかるとサッと蘭丸は名前を後ろに隠した。
「ウチの名前に何の用ですか三国さん理由を100文字以上200字以内で述べよ」
「細かいなオイ」
「変な理由では名前は渡しません」
「神童が呼んでただけだ。名前、行ってやれ」
『あ、はい!』
「名前!何かされそうになったらザ・ミストで逃げるんだぞ!」
『拓ちゃんはそんなことしないよっ!行ってきまーす』
蘭丸のガードも意味なく名前は神童のいるベンチへと駆けていく。
恨めしそうな視線を神童に送っている霧野に三国は溜息をついた。
おそらくサッカーに関することであろう紙を挟んだバインダーを真剣そうに見つめる神童。
名前が距離を詰めても、集中しているのか気付く様子のない神童に名前のささやかな悪戯心が働いた。
こほん、と小さく咳払いをして振動の背後に回り込む。
『神童!』
「!きり……名前か」
『あれ、わかった?』
「似てるけどそれくらいわかるさ」
蘭丸と名前は声質も似ている。
名前が少し似せて声を出せばそれはまさしく蘭丸の声そのものだった。
わざと蘭丸の口調で神童を呼んだのだがさすがに幼馴染と言ったところ。
騙されかけたがすぐに名前だと分かり理解した上で名前の立つ後ろへ振り向いた。
「伊達にお前達の幼馴染やってるわけじゃないからな」
何度名前の声に騙されたことか。
騙され続けたあの日々は忘れたこともない。
それどころかむしろ時にこういうことをされると一層濃く、鮮明に思い出すものだ。
『皆は騙されてくれるのに』
「…何度引っかかったと思ってるんだ」
『数えられないくらいかな!』
してやったりと言う表情で名前が笑う。
すると神童は少し苦い顔をした。
騙していたのも騙されていたのも紛れもない真実なのだ。
『でも何でもすぐに気付いてくれたよね』
「…まぁ」
名前の事、好きだし
ぽつりと言った言葉は名前には聞こえなかった。
今は名前の兄貴の目も光ってるし、焦ることはない。
名前をちゃっかり自分の隣に座らせ、神童は揚々と部活の話を始めた。
君の指定席
(で、ここがこうなんだが…)
(でもそれだったらこっちの方がよくない?)
(…神童ェ………!!)
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