今日は久しぶりに部活は休み。
流石の天馬も休む気満々らしく、昨日の夜に明日は昼まで寝てるからと秋に豪語していた。
そんな中、名前は木枯らし荘で朝早くから動き出す。
休みだと聞いて昨日から木枯らし荘に持ち帰っていたウィッグ。
慣れた手つきでバイトの時と同じツインテール姿になると、部屋のドアを開け左右に誰もいないことを確認して足音をたてず秋の部屋へと向かった。



『秋さーんっ』

「来た来た。ほら早く入って」



小声で名を呼びながら部屋をノックすれば名前よりも早く起きていた秋が現れ、笑いながら自室へと招き入れた。


「今日は買い物?」

『はい。服を買いに行きたくて』
「そっか。気をつけてね」


会話をしながら秋がクローゼットを開ける。
中にあるのは勿論女物の服だけなのだが今回名前の目的はその女物の服。



「それにしても勿体ないなぁ。名前ちゃん、こんなに可愛いのに」



普段は着ることのない丈の短いスカート。
この短いスカートを秋が履くのか、と言われたら答えはNOで、これは名前用にと秋が気を利かせて買ってきたものだった。
男装をして雷門に通っている、とは言え名前は普通の女子中学生だ。
可愛い服を着て遊びたい盛りの筈。



『褒めても何も出ませんからね』

「もーまたそんな事言って!天馬にでも見せてあげたいぐらいよ」
『ちょ、それは冗談でも止めてください。もう行きますから!』



そんなことしたら何の為にわざわざ秋の所に来ているのかがわからなくなる。
これまた秋の部屋に置いてある名前の鞄を持って名前はタッと駆け出した。


『行ってきまーす!』
「行ってらっしゃい」


揺れるツインテールに少し嬉しさを感じながら木枯らし荘から町へ飛び出す。

バイト以外で女の格好したの久しぶり、と思いながら道を歩き目当ての洋服がないかを探す。
とはいってもあまり着る機会もないのでそう買うものもなくプラプラと商店街を歩いた。

こういう何もしない事の楽しさは男にはわからないんだろうな、なんて思いつつ無意識のうちに足が向かっていたのは虎ノ屋。



『(癖って怖い)』



若干苦笑いすら漏れてしまう。



「あら、名前ちゃんじゃない!」
『おばさん!こんにちは』

「今日は虎ノ屋さんじゃないの?お出かけ?」



顔を出すかどうか悩んでいた矢先、虎ノ屋によく来るお得意さんのおばさんに出くわした。
虎ノ屋に行こうとしていたのかどうかはわからないが店前で声をかけられれば思わず立ち止まってしまう。


『今日は久しぶりの休みなので』
「あらそうなの?でもずっと虎ノ屋さんにいるものねー…##NAM2##ちゃんも大変でしょう?」

『そうでもないですよ?おばさん達といるのも楽しいですし』
「まぁそんな事言っちゃって名前ちゃんったら!」
『痛っ!』


バシッと音をたてて背中を叩かれ1歩2歩前のめりになるもののこけることなく踏みとどまる。



「じゃあそんな名前ちゃんの為にもまた明日来るわね!」

『ご贔屓ありがとうございます!』
「いいのよ!あ、これさっき買ったからあげるわ!」



名前の鞄に袋の飴を半ば突っ込む様にして入れおばさんは速足で去って行った。
嵐のようだった一瞬の出来事に名前は吃驚したものの飴はありがたく頂戴しておいた。


その後も何人か声をかけられながら木枯し壮への帰路につく。
愛されてるなぁなんて軽い自惚れを感じながら上機嫌で道を歩けば自然と漏れる鼻歌。
単純だと思うもそれは止まらない。

サッカー部の蟠りが嘘の様にも感じるがやっぱりそれも現実と受け止めたうえで今を楽しんでいる。




「いくぞー天馬!」

「こい信助!」





『!』



通りかかった河川敷から聞き慣れた声。


『…昼まで寝てるって言ったのに、天馬の嘘つき!』


笑いながら名前は近くにある公衆トイレで元から用意してあった男物用の私服に着替えて河川敷に駆けて行った。





『天馬ー!信助ー!僕も入れてよ!』

「名前!」




女も男も関係ない。
やっぱり最後はサッカーなのです。





二面相の休日

(秋姉に今日名前はいないって聞いたから信助誘ったのに…どこ行ってたの?)
(そんなこと聞くのは野暮ってもんだよー)
(なんか気になるなぁ…)


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