少し日が傾いて来た頃。
ずっと小さくなった彼らと戯れていたシエルだったがそれどころではなくなってきた。
もっと危機感を感じるべき状況…そう、仕事のことである。
『そろそろ仕事行かないとですね…』
「……すいません」
『いえ、何とかしてきます』
申し訳なさそうにするジャーファルの頭を撫でれば子ども扱いしないでくださいと返ってくる。
しかし子供なのだから仕方がない。
このまま1日丸々仕事を投げ出してしまえば明日以降の王宮は火の車状態になるだろう。
常にシンドバッドが仕事をしないというのは突っ込んではいけない。
『シンドバッドさん。明日はさすがに仕事してくださいね…』
「…さすがにな」
「逃げようなんて言ったら縛り上げているところでした」
『……よく眷属器持てますね』
眷属器はそれなりに重いだろうに、小さな体でそれを構えるジャーファルは逞しく見えた。流石というかなんというか。
シンドバッドの背中に悪寒が走りシエルにしがみ付き、シエルが頭を撫でる。
とはいえ仕事をしてもらわないといけないのは事実なのでシエルも苦笑いを漏らすことしかできなかった。
ジャーファルの事だ、仕事をするとは言ったがきっと逃げ出そうものならマスルールを駆使してでも使ってでもとっ捕まえられていたことだろう。
「俺たちは何もできねーけどよ、シエルちゃん一人で大丈夫か?」
「…しょうがないでしょ私たちがやいやい言っても」
「だから何もできないけどっつったろ!」
「聞いてたわよ煩いわね!」
『あーもうケンカしないでください!私なら大丈夫ですから!』
一触即発のまさに水と油のような関係の仲、シャルルカンとヤムライハを右腕と左腕に抱き上げて2人を諭す。
『心配してくれるのは嬉しいですけど今日はジッとしててください。そして明日お仕事で挽回してください』
「「……はい」」
『素直でよろしい』
そして素直な子供は可愛いものだ。
綻んだ笑顔で2人を降ろし、一度全員を見渡す。
1、2、3…と口に出して数を数えていき、全員がいるのを確認。
今日1日は彼らの存在を気付かれてはならないのでしっかりと何度も確認をし、一番優秀であろうジャーファルにも確認を取る。
特に喧嘩等はさせないよう、あまり騒がしくするとバレる心配もある。
一応仕事にはいくものの自分1人でどれだけ減らせるだろうか。
シエルは思いつつも仕事に向かう他ないのだ。
…特にシンドバッドが、心配でならない。
ジャーファルや他の者の目まで掻い潜って脱走しかねない気がして、仕事中も妙に色々考えてしまいそうだ。
『(いっつもジャーファルさんはこんな気持ちで仕事をしてるんだろうな…)』
シンドリア魔力暴発事件簿3
(…時々様子見に部屋戻った方がいいかな…)
(あぁもう仕事しなきゃ…!)