今までに自分の部屋にこれほど大勢の人が終結した事があっただろうか。
大勢と言っても物理的に小さくなってしまったので密度自体は低い。
笑っている場合でないのはわかっているのだが、小さくなった彼らの可愛さに頬が緩む。
ジャーファルからしたらため息ものなのだがこうなってしまった以上はしょうがない。
今日は何もしないのが一番の善作なのだ。
現在シエルの腕の中を陣取っているのはシンドバッドだが、シエルは恥ずかしがるような素振りも見せず大人しくシンドバッドを抱きしめている。
どうやら小さくなったという事実が男に対する羞恥心を削っているらしい。
「王サマばっか狡いっすよ!」
「はっはっは」
『ふふ…』
幼い子供独特の柔らかい感触や、若干回ってない舌も、シエルにとってはもう微笑ましいと感じる材料でしかない。
少し嫌がるジャーファルを抱いてみたり、普段では絶対にできないことだ。
喜ぶべきでもないが普段できないことをするというのはどうにも楽しい。
子どもという事で胸がないヤムライハも絶対に見ることはないだろうし、というかそれ以前にこんな現象が起こる事事態異質なのだから。
まぁ、これはこれで楽しむしかないということでこうなってしまった訳だが。
「…なんだかシエルちゃんがお母さんみたいね」
『私がですか?』
「僕エルさんの子供なら大歓迎だよー」
『私に子供って…ちょっと気が早い気がするんだけど…』
「でもシエルももう17だろ?」
『まだ17だよ?』
付き合いやら結婚やら色々踏むべき段階があるだろうに。
しかし自分がそんなことになる日がくるのだろうか。
全くそんな考えも付かずにえい、と部屋の隅に寄っていたモルジアナを抱き上げた。
すると同様の色を見せるモルジアナ。
いつもは大人しいから黙っているかと思えば少々複雑な表情でシエルを見つめていた。
『そんな端っこ行かなくてもいいのに…』
「シエルさん…その、降ろしてください」
『?…抱っこされるの嫌い?』
嫌いなら降ろそうとしたがそうではなくて、とモルジアナは顔を背ける。
「こういう人種でしたから…今までそういう経験がないんです」
『…あ』
『だから…その、複雑な感じで』
「モルジアナ…」
影の落ちた表情にシエルはモルジアナを抱いていた腕に力が入ったのがわかった。
愛情ってなんだろうか、と思って育った時期がシエルにもあった。
自分と、一緒なんだろう。
人と関わる事事態に違和感を感じ始めた、ここに来た頃のシエルみたいに。
そう思うと、変わったものだと自分は思う。
ファナリスというただそれだけだった。
ただ、それだけなのに。
特徴的な赤毛。ぼーっと成り行きを見守っていたマスルールも自分の腕に抱きあげた。
「…?」
『…なら今日は思いっきり甘えていい日だよ』
シエルは知ったのだから。
愛することも、そして愛されることも。
『愛されない為に生まれてきた人なんていないんですから』
今まで、愛を受けなかった彼女と彼へ、精一杯の愛を。
シンドリア魔力暴発事件簿2
(…シエルさん……)
(何?モルちゃん)
((…シンさんが凄い目で見てる…))
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