程なくして着いた中庭でやはり3人は鍛錬をしていた。
相変わらず炎の魔法を起点として戦うアラジンにアリババは天敵らしくアラジンの放った炎はすべてアモンに吸収されてしまっていた。

その様子はしっかりと彼らを探していた3人の目に留まっており、白龍は先陣切って鍛錬の途中に失礼します、と声をかける。
振り返ったアラジン・アリババ・モルジアナ。
挨拶がてら手を振るシエルが声をかけることに違和感は感じなかったのだがまさか声をかけるのが白龍だとは思わなかったのか声をかけられた側の3人は目を見開いた。


「シンドバッド王の命を受けましてお三方を探しておりました」
「私はただの付き添いよぉ」

「シンドバッドさんの!?」


王の命で皇子が自分の下に来るとは予想だにしていなかったアリババが1番に声をあげ、シエルを見やる。
本当だよ、と言えばマジかよ、と返ってきたが事実だからしょうがない。
というかこんな嘘を言う意味がないだろう。

交友の証として握手を交わす皇子と王子。


「シンドバッド様もなぜこのような3人に学べとおっしゃったのかしら」
『…あの3人は、きっと色んなことを知ってるし、色んな力を持ってるからだよ』
「……例えば?」
『例えば…か………うーん。そうだな』


その様子を見てシエルは優しげに眼を伏せた。



『人を赦す心とか』



ふーん、とまだ怪訝そうにアリババを睨んでいた白龍に視線を送り紅玉は一歩前へ踏み出した。
ただ、紅玉が見つめているのはアラジンである。


「ちょっと…バルバッドではお互い散々色々あったけれど…今はひとまず休戦するべきではなくって?」


少し視線がキツい白龍を含め、全員に言ったつもりなのだろう。
しかしシエルがバルバッドでの話を知っているのは聞いた範囲だけ。

白龍も直接的にあの事件に関わっていないとは言え、感じた疎外感はシエルにしかわからないもの。


「そうだね…」
「アラジン!?」

「ケンカしてもなんにもならないし…シンドバッドのおじさんやエルさんに迷惑かけたくないしね!」
『私?…うん、まぁ今この場でのケンカはやめて欲しいかな』

「そうよ。シエルもこう言っているのだし、あの時の事は水に流して…仲良くしましょう!」


『(あれ…?意外とあっさり…?)』


自分を仲介にアラジンと紅玉の笑顔にほっと胸を撫で下ろしたシエルだった。
……が、その安心も束の間。


『え、ちょ、2人とも何してるの!?』


ただの握手かと思われたそれは軽い殺意の籠った握手だった。
アラジンはありったけの力を注ぎ込み、紅玉に至っては女の武器であろう爪まで立てている。

慌ててシエルは2人を引き剥がしたが既にその傷は大きかったようだ。


「痛いじゃないか!」

「そっちこそ痛いじゃない!見なさいよぉこのアザっ!あなたのせいで跡になっちゃったじゃないっ!」
「ごめんね…でも…おしろいが剥がれただけなんじゃないかなぁ?お姉さん、なんだかお化粧もケバいし…」
「なっ…んですってこのガキがアァァ〜」



こんな冷たく笑うアラジンは初めて見る。
アラジンが冷たい…!?とモルジアナも驚くレベルだ。
勿論シエルも驚いたのだがこの状況を目の当たりにして考えるのはそれどころではない。


『2人ともなにしてるの!』

「「へ?」」
「「「は?」」」


取っ組み合いを始めようとした2人に降りかかったのはシエルの怒声だった。
予想外の怒声にモルジアナやアリババ、白龍まで規制をあげてしまったがシエルは確かに怒っている。


『こんな意味もなく無駄に怪我するだなんて…ケンカはせめて口だけにしなさい!』

「「……はい」」


珍しくシエルが怒った。
一度港でも怒ったことはあったが、その事実だけで驚くのには十分な材料である。

怒りのオーラを収めないシエルに説教されながらアラジンと紅玉はその場に思わず正座した。
大体紅玉ちゃんは女の子なのに、シンドバッドさんに迷惑かけない話はどうしたの。
止むことのない説教の嵐。

あぁ、こんなところはジャーファルさんに似たんだな、とアラジン・アリババ・モルジアナは密かに思っていたのだった。





第2声には貴方の事を

(まったく…)
(とか言いながら手当てする辺りシエルらしいわね)
(悔しいけどそこは同感だよ)
(なんですって!?)

(2人とも…?)

((はい!))

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