「ジャーファル」
「なんですかシン?」
いつにも増して真剣な表情のシンドバッドが信頼の厚い臣下の名を紡ぐ。
執務机にこうも真剣に座り込んでいるシンドバッドは珍しいものだ。
どうやらまともに事を考えていたらしい。
伏せ気味だった視線を上げたシンドバッドのにジャーファルが目配せを送った。
「そろそろあの3人の修業が身に付いたなら迷宮攻略に行ってもらおうと思う」
「…そうですか…で、私に聞くという事はまだ何かあるのでしょう?」
「…シエルに同行をさせることに対してどう思う」
「!!」
これはまた意外な申し出。
ペンを動かす手が止まりシンドバッドが発した言葉を頭で再度復唱した。
「…意外ですね」
「何がだ」
「てっきり貴方はシエルを手元に置いておくかと思いました」
再びペンを動かし出し、ジャーファルは抑揚もない声で返す。
あくまでもジャーファルは中立。どちらにも属さず間を介すのみ。
シンドバッドが求めているのがその意見だとわかりきっている上、ジャーファル自身は元よりそのような気質だからだ。
「あの白龍皇子とやらもだが…シエルも外の世界を知るべきだと思ってな」
白龍と紅玉という存在が運んできた影響は実に大きなものだった。
それがまた近い年だったというのも大きいだろう。
「貴方が思うなら止めません。外の世界を知る機会としてはいいとは思いますよ」
「…そうか」
ジャーファルは嘘を付かない。
故にシンドバッドに長く仕えているのであり、彼の傍にいることができるのであろう。
確かに、シエルはシンドリアから外へ出たことがない。
しかしその知識意欲をシンドリアに留めておくのは惜しいものだとジャーファルも思っていた。
ウリエルの力も、シエル自身の力も、燻っているだけで成長はしないだろう。
いきなりの迷宮攻略、とはいえシエルも迷宮攻略者だ。
いつまでも特別扱いはしていられない。
己の力を知り、同時に周りの力を知る。
それがどれだけ難しく、大切なのかということを知って欲しいと思っていた。
「しかし、シエルを傷付けることだけはしてやらないでくださいね」
「…………お前も随分過保護になったものだな」
正直、シンドバッドはジャーファルがそのようなことを言うような人物ではないと思っていた。
自分の考えとのギャップは大きく、予想外なことにそう言ってシンドバッドが少し笑う。
「貴方とシエルが似た者同士だからですよ」
「そんなに似ているのか?」
「そういう所が無自覚な辺りも、ですね」
だが行きつく先はソコ。
ジャーファルの主は、あくまでもシンドバッドなのだから。
仄かに馬鹿ばっかり
(そんな酔狂に付き合う私もまた)
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