少し距離のある給仕場に向かう途中、中庭で眷属器について離してるであろう3人を見かけた。
足飾り…かと思ったけど装飾の鎖は足飾りには不向きだったようだ。
少し笑いが込み上げてきて笑ってしまう。

あの3人は本当に仲がいい。

だからこそああしてモルちゃんが力になりたいと思うんだろうし、頑張れるんだと思う。
それにしても、改めて自分でも考えることはたくさんある。


大分前、修業中にシンドバッドさんに聞いた"全身魔装"がいまだに身に付かない。


それに、色々教えてくれてたウリエルもなかなか夢に出てきてくれなくなった。
やっぱり魔装を身に纏うのだからジンとの対話は不可欠だと思うのにな。

えい、と干してたシーツをパタッと叩きながら考えてみた。
ちなみにこの洗濯物の回収の後は厨房に行かなければならない。
忙しいけどそれを望んだのは自分だから別に苦とは感じないんだけど。


"お二人の役に立てるような強さが欲しい"


モルちゃんは純粋で、それでいてまっすぐだ。
私も、確かに誰かを守る力が欲しいと願った。

でも曖昧で、霧がかかったようにハッキリしないその願いはどうしたらいいのか、自分でもわからない。
視界にチラつく金属器。
募るのは焦りと憤り。

紅玉ちゃんと剣を交えて、まだまだ自分が未熟だって思った。
どうして私はあんなに言葉に揺れてしまうんだろう。
もっともっと、強くなりたいのに些細な言葉に揺れてしまう私がいて。

挙句シンドバッドさんの言葉まで疑心暗鬼になって何も言えなくなってしまった。



『…私のばか』



畳んだシーツを入れた大きな籠に視線を落とし、ぽつりと呟く。



「何がバカですって?」
『へっ!?』



驚いて手に持っていたシーツを離してしまって、見事に声の主にシーツが降りかかってしまった。
姿は見事シーツに包まれてしまったけど間違えるはずもない。


「ちょっと!何よこれ!?」

『ご、ごめん紅玉ちゃん!ちょっとビックリして…!』
「まったく…」


シーツをバサッとはらった紅玉ちゃんに慌てて駆け寄る。
手渡されたシーツを腕に抱えて頭を下げたけどそこまで謝らなくてもいいわよ、と言われ案外あっさりとその頭を上げることになった。
何してるの?と聞かれたからシーツを畳んでるんだよ、と当たり前の返答。
そしたら紅玉ちゃんもやるって言いだしたからかなり焦った。

皇女様にそんなこと、と断ったけどなんでもシーツを畳むのをどうやってやるかが気になったらしい。
言われてしまえば教えるしか道はなくて。
思った通りというか、しっちゃかめちゃかな畳み方をしようとする紅玉ちゃんに畳み方を教えるのは意外と大変だったり。


いくつか皺を寄せながらも綺麗に畳めてきた頃、紅玉ちゃんが「で?」と口を開いた。



「なんで貴方がバカなのかしら?」

『…聞いてたの?』
「えぇ」



残り少ない干されたシーツが風で揺れる。


「貴方がバカなようには、私には見えないわ」
『…バカだよ。私なんて』

「港ではシンドバッド様にあんな聡明なご判断をしておいて?」
『違うよ。………シンドバッドさんを信じれなかった私なんて』
「シエル…貴方信じられなかったというのがバカに繋がったとお思い?」

『え?っわ!』


紅玉の持っていた1枚のシーツが私の頭に降りかかった。
パッと顔を上げたら紅玉ちゃんがちょっと怒ったような、そんな表情で私を見ていて。



「誰だってなるのよ。信じてたと思っている人を一瞬信じれなくなるなんて」

『!』

「むしろ信じてるから疑心暗鬼になるの」
『そう…かな』
「そうなのよ。シエルはシンドバッド様を信じていた、だからあの時一瞬でもシンドバッド様を信じられなかった」
『……』



「落ち込むことなんてないわ。貴方は胸を張っていいのよ」




なんのためにシーツを被せてくれたのかなんて、今の私にはわかりすぎていた。
泣きそうになった私の視界は殆ど遮られ、ありがとうと紅玉ちゃんに呟きながらそのシーツをぎゅっと握りしめるしかなかったのだから。









心中察した敗北の2文字

(真っ直ぐあの人を信じる、そんな貴方だから)
(あの方は貴方を選んだのでしょうね)

_


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -