王宮の塔を見渡せる吹き抜けた廊下で、白龍とシンドバッドは王宮を一望していた。

国外からの客人たちのための施設は自由に使ってくれていいということは勿論のこと、見識を広めたいなら学者たちの集う黒秤塔、武術の鍛錬なら銀蠍塔と。
異国の客人の多いシンドリアならではの王宮のつくりに白龍は感銘を受けていた。


「素晴らしい…一代にしてシンドリアというこれほどの王国を築かれた貴殿ともぜひゆっくり話をさせていただきたかったのです」
「貴殿と"も"…か?」
「はい」


頭の中には先程の言葉もしっかりと刻まれている。
シエルとも話したかったという事を暗に意味している発言を復唱すれば肯定の言葉。

しかし熱心に塔を見つめる白龍の横顔は少年ならではの好奇心にも溢れていた。
目新しい作りはさぞかし面白いだろう。
それは煌帝国の皇子、練白龍としての顔。


「シンドリアの一国のみならず……貴殿は強力な連合をも束ねておられる…
やはり、並々ならぬ才覚と仁徳の成せる業なのでしょうね…」

「大げさだなぁ君は」

「いえ、貴殿と"七海連合"の力は確かなものです。
何せ我が陛下が他国の王との直接交渉などに応じたのは初めてですからね」


煌帝国の皇帝にあんなに強くものを言ってのけたのはシンドバッドが初めてだったのだ、と白龍は語る。


「………そうだったのか。それは、陛下にさぞ不遜に映ってしまったかもしれないな」


バルバッドの事件はシンドリアにもバルバッドにも煌帝国にも大きな変化をもたらした。
七海連合の不可侵略を掲げて煌帝国に足を踏み入れたあの日。
アリババ達を庇うという意味もあったが、何よりも彼は"人"というものを優先して行動をしている。

王として成すべきことを実行するために。
煌帝国とは末永く友好的な関係を築いて行きたいと思っている、そう言ったシンドバッドに白龍はフッと笑った。



「あなたは嘘を吐いている」

「!?」




「友好関係など、表面上のものでしょう?
あなたは本心では煌帝国を快く思っていない…"煌帝国は、他国を侵し無用の戦火を広げる"シンドリアにとっても油断ならない侵略国家"…違いますか?」
「………」


国交間の問題は当たり前ながら両国にデメリットしか運んでこないものだ。
それを避けたいとするのは当たり前だが、シンドバッドはその発言に嘘を重ねていると。
言い放った白龍に表情一つ変えずシンドバッドは肯定も否定もしない。

ただただ聞いているだけのシンドバッドへと振り向いた白龍は言い放った。




「そしてシエル殿にも嘘を付いている」




これには少しシンドバッドは目を見開く。


「…どういうことかな?」

「港での一件。貴方はシエル殿を特別視しているのは明らかだ。
しかしシエル殿と貴方の間には何か隔たりがある。



その隔たりを利用して彼女を欺き続けている。



俺にはそう映ってなりませんでした」



あの短時間でそれまで。
感心と、突きつけられた言葉への感情が胸に募る。

―分かられているものだな。
シンドバッドは自嘲気味に口端を持ち上げた。
現実から逃げることはやめた。
だから口に出して言おうではないか。




「…そうだな。俺はシエルに嘘を付いている」

「!」



あっさりと認めたのは意外だった。
シンドバッドが少し目を伏せ、憂うように空を見上げる。



「俺はシエルに嘘を付き、シエルは俺に嘘をつく」



さもそれが当たり前かのように。
目に映るシンドバッドは、白龍が見たシエルの横顔に酷似していた。

―あぁ、この2人は。





「それでいいんだ。俺たちの間にあるものは」





隔たりなんて超越しているような、そんな関係にあるのだと。
この後白龍がシエルのことに付いて触れることはなかった。

ただ、この"留学"の意図を知った以上彼らには協力を促したいのは事実。
その白龍にシンドバッドは"話の続きがしたければ君はもっと学びなさい"と言った。
言葉に含まれた意味は大きく、何かを学ぶという事はそう容易ではない。
外の世界の事、そこに住む人々の事。
学ぶべきものはたくさんある中、シンドバッドは白龍の手本になるであろうとある人物に会うように促すのだった。






言葉にしたら溶けてしまうから

(俺は)
(私は)

(貴方に嘘を付く)
(キミに嘘を付く)

_


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -