「煌帝国を…」

『滅ぼすこと……?』




煌帝国は白龍の自国の筈だ。
それを滅ぼさなければならない理由。

そう簡単に理由など探せないわけで、でも力を求めている白龍は間違いなくその野望を秘めている。

シエルは唖然を目を見開き、シンドバッドも表にこそ出さなかったものの驚きは隠せなかった。



『当たり前ですけど…煌帝国は、白龍さんの生まれ故郷ですよね…?』
「はい」



なんで、とは聞けなかった。
あまりにも理由を聞くには恐ろしい。

皇族という彼の立場において、自国を滅ぼさなければならない。
そんな理由があっていいのか。
だってそれは自国の民を、そして家族までを滅ぼすという事。


「シンドバッド殿にも、シエル殿にも、俺の目的を知っていてもらいたかった」
「…」
「そして目的達成の為に俺は…」

『…このこと…紅玉ちゃんは…?』
「言っていません。言ったのはお2人が初めてです」


事実、白龍の野望を知っているのが3人。
本人を除けば他の2人が異国の者という、普通ならあってはならないことであろう。

家族を殺す、だなんて冗談でも考えたくない。
シエルはごくりと息を飲む。
白龍がそんな残虐なことを考える人ではないとこの短時間でも理解をしているつもりだった。
しかし何が彼をそう掻き立てるのかは彼自身にしかわからないのだ。

あ、と声を出したくても上手く言葉が紡げない。



『と……とりあえず、手を離して貰えますか?』

「え…?あ!す、すいませんシエル殿!」
『い、いえ…』



絞り出したのは全く内容のないもので。
頭が勝手に干渉するのを避けたかったからそうなったのか。

しかし思った以上に距離の近付いていた2人にバッと距離が開く。
自我に返った白龍の顔は少し赤く染まっていて、白龍は元は純情なのかもしれない。シンドバッドは互いに顔を赤くする若者2人を見てそんなことを考えていた。
だが思考は一瞬で掻き消され先程の鋭い表情の白龍を頭に過らせる。

シエルが白龍に対して抱いていた思いはいたって普通の者だった。
ただ、人の死に過敏に反応してしまうシエルにこの発言は刷り込まれた恐怖を彷彿をさせるものに近い。
とりあえずシンドバッドはシエルをこの場から離したかった。
今はまだ、シエルは白龍の野望を知るべきではない。


「……シエル、ちょっと席を外してもらって良いか?」

『……あ、…はい…』
「ついでにアラジンが探していたとヤムライハも言っていただろう。顔を出してきなさい」

『わかり、ました。…失礼しますね白龍さん』
「はい」
『ではまた』


予想外にあっさりとシエルを解放したな、と思いつつそう誘導したのは自分だ。
シンドバッドは複雑な表情で部屋を出て行くシエルの後姿を見送って白龍に向き直った。




「とりあえず、案内でもしながら話そうか。詳しく聞こう」

「…はい」




王と皇子、2人の間に見えない何かが走る。
シエルが廊下を駆けている間、彼らが語ったこととは。







交錯する憎悪の暁

(君は何を見据えて彼女を見るのか)
(俺も人の事を言えはしないのかもしれないが)

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