俺が自分に虚勢を張った殻を纏いだしたのはいつからだっただろうか。
―「使命を果たせ!戦い抜くと誓え!お前がやるんだ…」
姉上にちゃんとしなくては駄目だと言われた時から?
あの業火が俺の身を焼き尽くしてから?
いや違う。
とにかくもうわからなくなるぐらいまでには、俺はがむしゃらにこの地に生を受けてきたんだ。
―『ねぇ貴方はどうして戦うの?』
「え…?」
掻き消された炎の先に見えた光の中から差しのべられた手は暖かくて。
俺はその手を掴まずにはいられなかった。
『白龍皇子!私です、シエルです』
「!」
シエルの声にハッと我に返った白龍が扉の先にいるであろうシエルに慌てて座っていた席を立つ。
ただ、ドアを開けた先にいたのはシエルだけではなく、予想外の来客に白龍は扉を開けて唖然としてしまった。
「シンドバッド王…!貴殿もいらっしゃったのですか」
「君をこのついでに王宮内を案内しようかと思ってな」
「お心遣い感謝します。ですが、先にシエル殿と話をさせていただきたい」
「…あぁ」
『あの、それで私に話とは…?』
後ろに控えるシンドバッドに一礼し、白龍はその場に片膝をついた。
その行動の意図が掴めず、疑問符を浮かべたシエルの手を取る白龍。
港では大人げない対応を取ってしまったシンドバッドも今は頭に血が上っていない為か冷静だ。
しかし油断をしてはならない。
白龍が何を目的でシエルに近付いてきているのかはわからないし、ジュダルの件もあって今煌帝国がわが何を考えているのかが何一つわからないのだ。
シエルの力が特殊なのは誰もが認める事実。
ジンに選ばれた異界の器の存在、シエルは重要視してはいないようだがそれがどのような存在であるかの重要さをシエルはわかっていないのだから。
「俺は数日前、夢を見ました」
「…夢…?」
「はい」
何度か聞いたその単語が導く。
「港で一目見た時から…見間違えたりなどしませんでした……。
貴方が…シエル殿が俺に手を差し伸べてくれる夢です」
「!」
『……私が…?』
「あの夢を見た時から、貴方にお会いしたいと思っていました…」
伏せていた顔が上がり、シエルと白龍の目線が交錯する。
白龍の表情は真剣な表情と打って変わってこの短時間の中でも見たことがないくらい柔らかかった。
敬愛、という中に愛という字が含まれているまさに文字通り。
シエルの手を取った右手とは逆、手持無沙汰となっていた左手がシエルの手に重なる。
このような人物が、シエルに対してどんな考えを抱こうか。
シンドバッドには一目で図れてしまった。
『ま、待ってください。夢ってことは…ウリエルではなかったんですか?』
「いいえ、あれは確実に貴方でした」
「…他人に見せる夢にシエルが出てくるとは…」
『私がいろんな人の夢を見ることはありましたけど…』
「……」
ウリエル…彼女は周りに見せるものを見せ、何も語らない。
見せたものが意味することを導きだし、どうするかはその人次第という事なのだから。
「シエル殿、そしてシンドバッド殿。
俺は自分の目的をあなた方に知って頂きたくて来たのです」
「…君の目的とは一体なんだ?」
シエルの手を離し、スッと立ち上がった白龍の瞳に燃える業火。
真剣な表情に幼さなど一切消えていた。
ただ映っているのは目の前にある自分の歩む道だけ。
「煌帝国を滅ぼすことです」
何の迷いもなく言い放った白龍に少し、シエルの背筋が凍った。
情熱果実をもぎ取る
(冷徹な瞳に宿る情熱)