慣れた王宮の道を進みながらシエルは煌帝国というものの器を図りかねていた。
あのジュダルの事件も、セシルの死も紅玉も白龍も。
当たり前だが皆が違い過ぎて判断しかねるのだ。
でも、目の前にいる彼ら彼女らはどうなんだろう。
少なくとも紅玉は剣を交え、涙を目の当たりにし、本性を垣間見た。
安心できるような、少し胸がホッとする。
同じだって言ってもらえたのも友達だって言ってもらえたのも嬉しかった。
「シエルちゃん!今着いたのね」
『はい。ヤムライハさん、さっきはお疲れ様でした』
廊下で呼び止められた声の主に覚えがあって足を止めれば心配そうな表情をしたヤムライハ。
シエルは"真実の水人形劇"を施行したヤムライハを案じていたが、ヤムライハはヤムライハであの後のシエルを紅玉の成り行きを案じていたらしい。
「それはいいんだけど…大丈夫だったの?皇女様とギスギスしなかった?」
『いいえ!むしろよくしてくださいました!』
「ホントに?」
『はい!』
にこにこと満面の笑みを浮かべるシエルにヤムライハはうーんと喉を唸らせた。
若干ズレた思考を持っているシエルと紅玉の意見の相違がなかったのかとか、色々考えてしまう。
実際はそんなことないのだが、ある意味あのシチュエーションで心配をするなという方が無理なのかもしれない。
男と女の仲という者を巡る気持ちという者は本当に怖い。
故にあれだけ紅玉が感情を露にしたのであり、シエルを距離を近づけたのでもあるのだ。
「ならいいんだけど…」
『大丈夫です!シンドバッドさん失礼しま……す…?』
ギッと音を立てて開けた扉の先にマスルールに首根っこを掴まれたシンドバッドがいた。
どこに行くつもりだったのだろう、とにかく抜け出そうとしたところを失敗しているのは確かだ。
第一声にジャーファルのため息を聞く羽目になるとは思わなかった。
シエルの姿を見てパッと手を離したマスルール。
シンドバッドは身を乗り出してご苦労だったな!と何事もなかったかのようにシエルの声をかけた。
「…まったく…なんて切り替えの早い人なんですか」
「何のことだ?」
「…さっきまでシエルの様子見に行こうとしてましたよね…」
『え?』
「あら、やっぱり王も心配だったんですか」
だから何が心配だったんだろう、とシエルは首を傾げる。
あの剣を交えた事については皆がいる時にも謝罪をしていたというのに。
あえて言うなら夏黄文の事か、と思ったがシエルはアレに関してだけは謝る気は一切なかった。
しかし、あちらが悪かったとはいえ姫の側近を殴り飛ばすという事で外交関係が悪化したかもしれない。
それだけは考えが浅はかだった、と今更ながら気付いたシエルはサッと顔を青ざめさせてごめんなさい!と思いっきり頭を下げた。
「えぇっ!?なんでシエルちゃんが謝るの!?」
『だ、だって……その、夏黄文様を引っ叩いてしまって…外交関係が悪化したら…』
「それはありませんから大丈夫です」
「あれは確実にあっちに落ち度があったから大丈夫よ」
「…俺も疑われ倒したしな」
「八人将全員にスけど」
「うるさい!」
『え…じゃあ一体何のご心配を…?』
「「「「「……」」」」」
鈍い。
夏黄文が"自分に気のある紅玉姫"という言葉を吐いたりもしたというのにまさか放心状態でまともに聞いてなかったのであろうか。
例えそれを聞いていなかったとしても行動と言動で気付いてもいいもののシエルは気付かない。
それがシエルらしいと言ってしまえばそれまでなので、もう何も言わないで置くことにした。
「それよりシエル、お2人は無事に王宮まで?」
『はい!今は用意したお部屋に宛がっていただいてるところです』
「わかりました」
「そういえば…さっきアラジンの所行ってあげてくれる?さっきシエルちゃんのこと探してたみたいだから」
『あ、すいませんこの後白龍皇子に呼ばれているので…その後でもいいですか?』
話の流れにピシリとシンドバッドの空気が凍った。
その空気を察したジャーファルはマズイと思ったがこれは回避のしようがないであろう。
「…白龍皇子に?」
『話があるとのことだったので…私が後で伺いますと「俺も行く」
『え?』
「「「(やっぱり……)」」」
話題を振ったのが間違いだった、とまたため息をついたがシンドバッドはもう引き下がる気はないようだった。
「文句は言わせんぞジャーファル」
「はいはい早くしてきてくださいね」
ジャーファルを尻目に行くぞ!とシエルの手を引いて歩いて行くシンドバッドを見てなんでこんなことには積極的なんだかとジャーファルはヤムライハと2人で息をついた。
何も考えずその姿を見送ったマスルールがその様子に首を傾げたのは言うまでもない。
どうせ嫉妬ですから
(後でツケが回ってくるってどうして学習しないんでしょうか…)
(しょうがないですよ王ですもん)
(…それで済まされるシンさんて)
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