なんとか妙な雰囲気を晴らし、王宮に白龍と紅玉達を導くために街中を抜ける。
一度街を抜けなければシンドリア側で用意した馬車がないのだ。

しかし自国でない街を見るというのもまた留学の一環とシエルは感じていた。
そしてこの短時間でわかったこと。


『(紅玉様は、少しだけ不器用なお方)』


でも、普通の女性。

姫、という身分に身構えていた自分がいたのかもしれない。
あの謝罪1つにしても、シンドバッドに対する対応も。
気丈に振る舞ってはいるけど不器用で照れたりおどけたり驚いたり、どこにでもいるような自分と同じ女だということを知った気がする。


『白龍様、紅玉様お疲れではないですか?』

「心遣い感謝します。俺は大丈夫です」
「私も、これくらいで疲れたりしないわ」

『あ…そうですね。紅玉様…とってもお強かったですし、相当な鍛錬を…?』


金属器を持っている、ということは紅玉は迷宮攻略者。
当たり前だが並外れた力でなければダンジョン攻略はできないだろう。
褒められたことが嬉しかったのか胸を張る紅玉。


「当然よ。…というか、貴方も迷宮攻略者でしょう?」
「そうですね。金属器も随分使いこなしているように見受けますが」
『うーん……どうなんでしょう…』

「?どういうことですか?」


歩きながらではあるがシエルは自分の金属器に視線が行った。


『ウリエルの迷宮は特殊らしいので…私、実際の迷宮がどのようなものかは分からないんです』


アリババやアラジン、シンドバッドから聞いた迷宮の話と自分の攻略した迷宮の話は完全に異なっている。
紅玉がに身に付けているジンもどれほどの労苦と鍛錬の上に成り立っているのかもわからない。


「それでも、貴方は迷宮攻略者なのよ」
『…そうですね』
「胸を張りなさい。あなたと私は同じなの」

『!』


同じ、という意味で紅玉が何を示したかはわからない。
しかし何が言いたかったのかはなんとなくわかる。
シエルの表情に影が差したことに気付いた紅玉による励ましではないのか。
思わず紅玉の方を振り向いてしまい、白龍も珍しい紅玉の行動に目を見開いている。

シエルは紅玉を見やったが、堂々と胸を張っていた紅玉はぷいっとシエルから顔を背けてしまった。
その動作にはどうも落ち着きがなく次には疑問符を浮かべてしまう。


「だから……その…」
『どうしました紅玉様…?』



「わ……私とお友達になりなさい」



「『…え?』」


紅玉の発言に意識もしない声が漏れてしまった。
背けた耳は赤く、少し照れているのが伺える。

つくづくこの人は不器用なんだな、と思うのと同時に一国の姫とお友達というのはどうなのだろうかとも思ってしまうこの思考。
拒む理由はもちろんないのだがそう易々と承諾してもいいのだろうか。


『……私なんかでいいんですか?』

「…見ず知らずの私の身を案じてくれた、貴方がいいのよ」
『あ…もしかしてさっきの……?』


「…」
「…」

白龍が夏黄文の方を向いたが夏黄文は青ざめた顔で顔を反らした。
今しがたの冤罪事件で剣を交え、その胸で涙を流した間柄。
大げさな言い方ではあるが、まるで己の事のように自分の身を案じてくれていたシエルに少なからず紅玉は救われていたのである。




「それに、貴方とならばれるはずよ。だって"おんなじ"なんだから」



また自分を認めてもらえたような気がして。
異質だと思っている自分を同じだと肩を並べられたのが嬉しかった。
思わず口端が上がって頬が緩むのがわかる。

今なら歩み寄れる気がする。



『なら、紅玉様からでなく私からお願いします』
「え?」



少し照れ恥ずかしくて、でもそれ以上に勝るのは嬉しさ。




『私とお友達になって下さいませんか?』




繋がって欲しい思い。
だって友達になるのに建前なんていらないでしょう?










君の一言はまるで


(…貴方、友達なのにそんなに他人行儀なの?)
(え、っと…じゃあ…こ、紅玉……ちゃん?)
(!そ、それでいいのよそれで!早く王宮まで行きましょシエル!)
(あ…名前知っててくれたんですか?)
(さ、さっきシンドバッド様にそう呼ばれていたからよ!)

((義姉上…嬉しいなら言えばいいのに))

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