いつもと同じで笑っているシエルの背後に漂う雰囲気は確実に黒い。
よっぽど夏黄文の行動が気に食わなかったらしい。
あの後から港に佇んでいたシエルが気負っているのは明らかにいつもとは程遠いものだ。

しかし、皇子である白龍の非礼、魔法についての信憑性についての謝罪によりシンドバッドもその旨の話を無きものとすることにした。
彼は決してこんなくだらない茶番をシンドリアに叩きつけに来た訳ではない。


"重大な目的"の為にこのシンドリアに留学に来たのだと。


真剣な表情で全てを見据える白龍。
纏う空気は独特なもので、いまだにどうにも変に蟠りが残っているシエルも白龍を見る目だけは少し違っていた。


『シンドバッドさん、私白龍皇子と紅玉様達を王宮にご案内しますね』

「あぁ。頼んだぞシエル」
『はいっ』


当初の予定によりシエルは煌帝国の人混みに紛れて行く。
シエルの機嫌がどうなっているのかは彼女に任せることにした。
公私混同をするような人物ではない。むしろさっきのように怒ったのは酷く珍しいパターンである。


「いいんですか?彼らを許して」
「いいさ。少なくともあの皇子殿下殿は目的とやらを果たすまで帰ってくれない雰囲気だからな。だが……」
「…?」

「…彼もシエルに興味があるようだ」

「!…それは…どういう意味のですか?」
「さぁな……」


練白龍。練紅玉。
煌帝国の皇子と姫という身分の彼ら2人とシエルの間にある誰も知らない見えない繋がり。

―ある一方はシエルの力を。
―ある一方はシエルの恋心を。

知る由もない、しかし断ち切れもしない。
繋がった糸はずっと絡まり合い、しかし事は何物もなかったように進んでいく。














『白龍様、紅玉様』
「!貴方は…」

あの騒動の後という手前、互いに張り詰める空気を乱す訳にはいかない。
シエルは冷静に白龍と紅玉に向かい合い腰を折って頭を下げる。


『王宮までの案内をさせていただきますシエルです。先程は家臣殿に手を上げてしまうあるまじき無礼…申し訳ありませんでした』
「いや、元はと言えば俺たちの元凶だ。それよりもシエル殿には申し訳ないことを…」


白龍は紅玉との決闘で切れたシエルの髪の毛の一部を見つめる。
確かに冤罪であったならばあの決闘に意味はなかった。
互いに怪我こそなかったもののここでどちらかが大怪我などしたものならそれこそ外交問題に発展していたであろう。


「…義姉上。言いたいことがあるなら先に言っておいた方がいいのでは?」
「えっ…!?」
『紅玉様?』

「時間が経てば言いにくくなるでしょう」


白龍の言い示す義姉上とは当たり前だが紅玉の事だ。
言いたいこと、というのに心当たりがなく首を傾げて紅玉を見伺う。
着物の裾で隠れきれていない顔からは少し赤くなっているのがわかりわたわたとしているのがわかる。
まさか既に粗相をしてしまったかとサッと顔を青ざめかけたシエルに大丈夫ですよと白龍。
もじもじとシエルを見ては目を反らしを繰り返した紅玉がシエルと目をは合わせた。


「その…先程は無関係の貴方にまで剣を向けてしまって…」
『え……?』

「ごめんなさい!私…本当にあの時はカッとなって…」
『こ、紅玉様!頭を上げてください!』
「でも…」


バッ紅玉が頭を下げ、それを慌ててシエルがやめさせる。
一国の皇女に頭を下げさせてしまったなんて予想外の形で粗相をしてしまった。
本当にシエルは気にしていないのにここまで紅玉が気にしているとは思わなかった。


『同じ女性として…紅玉様のお気持ちはよくわかります。それに…その、紅玉様と同じ経験をしたことがあるので』

「「え?」」

『紅玉様がお起きになられた時に服も髪も乱れておらず、シンドバッド様だけが服を脱ぎ棄ててらっしゃったと仰いましたよね?』
「え、えぇ…」
『私も同じ状況になって王宮で叫び倒してしまったことがことが1度…』
「「……………」」


寝ている間に衣服を脱ぎ捨ててしまうというのは本当だったのか。
シエルがそういう目に遭ったというのよりそっちに唖然としてしまい、2人は違う意味で顔を青ざめさせた。
そしてそこまで言ってこれはシンドバッドの品位を下げてしまっているのではないとハッと我に返り慌てて弁解を始め先程とは違う異様な空気が立ち込めてしまったのだった。





知らぬが某君

(へっくし!)
(どうしましたシン?)
(…いや…誰かが俺の噂でもしてるんじゃないか?)

_



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -