シンドバッドの腕から抜けることは許されないらしく、離れようとすればするほど強く抱かれる肩に腕から抜けることは諦めた。
まだ渋い顔をするヤムライハが確認と言わんばかりにシンドバッドに近寄る。


「…本当にやってないんですね?」
「やってない」

「本当ですね?私は本当にあったことしか皆に見せることはできませんよ?」


どういうことか、とアラジン達は首を傾げたがその言葉の意味を後に知ることになる。
ヤムライハはシンドバッドの傍に寄り、シエルに聞こえない小声で囁いた。


「…シエルちゃん泣かせるような結果になったら…」
「ならん!!!」
『?』

「…じゃあ来てください、王よ。皇女様、あなたも」
「…?」


しかとシンドバッドの意思を確認してから一息つき、ヤムライハは紅玉を呼ぶ。




「あなたに見せてあげる。

本当は何がったのか。あなたのルフが語る偽ることのできない真実を………」




紅玉に差し出したヤムライハの掌に浮かぶ水球。


「私の魔法でね」


ヤムライハの得意魔法であるそれは確かな信頼を持ち、何をするのかがわかったシエルはシンドバッドにいい加減釈放を所望する。
しぶしぶ、といった感じで離された腕。
シエルはアリババの元に駆けて行き、短剣を貸してくれと頼んだ。
何に使うんだ?と聞いたアリババに"真実の解明の為に"と返したシエルに、まだ何をするのかよくわかっていない3人は使用用途が全く分からなかったがシエルが言うならとアリババは短剣を差し出した。

紅玉の腹心の部下である夏黄文は他国の者の使う魔法など、と反対したが紅玉はその言葉を拒否した。


「いいえ…私やるわ!知りたいもの。本当は何が起こったのかを!」


彼女は彼女なりにちゃんとした事実を知りたい思いがあるらしい。

聞き届けたシエルはヤムライハに短剣を渡し、これから起こるであろう成り行きを見守るための準備を頼むことにした。
絶対の信用があるヤムライハの魔法。
シンドリアの命運は全てはそれに託されたのだ。

この魔法を成功させるために少々煌帝国側の協力がいる。


『あ、あの…白龍様』
「…?」
『少々お頼みしたいことがあるのですがよろしいですか?』
「…どういうことですか?」


『この魔法は…お二人の血を含ませ、ルフの入った水に我らが8人将ヤムライハ様が魔法をかけることにより発動する魔法です。
お2人の姿を模した水の人形は問題のあの日に起こった出来事を映し出す、というものなのですが…』
「…なるほど、煌の屋敷の構造がわからなければ再現のしようがない、と?」

『はい』
「わかった。すぐに模型を用意させる」

『お察しいただき感謝します』


両手を胸前で合わせ頭を下げる。
この練白龍という人物は予想以上に話しの通じる人物らしい。

シエルは忠実に作られていく模型を目にしながらジャーファルとシンドバッドの元へ。


「…冷静な対処ありがとうございます。貴方一番混乱しているでしょうに…」
『いえ…その、私も気になりますので…』
「この際です…何が起きても驚いてはいけませんよ」
『はい』

「どういうことだお前達」


真実を知るのは怖い。

ここでもしもシンドバッドが紅玉に手を出してしまっていたとすれば政略結婚は確実なものとなってしまうだろう。
伝えることはないと思っていた思いがここまで苦しい思いをするとは思いもしなかった。
しかし、シンドバッドも似た思いを抱いていることをシエルは知らない。


「シエル」
『…シンドバッドさん』


「…俺はシエルを裏切らない。それだけは信じていて欲しい」



なぜ神は出会いをもっと早くしてくれなかったのか。
それだけが向ける所のない憤りとなり、胸に昇華されていく。



「完成したわ!」



シンドバッドに答えようと口を開いた時、シエルが答えるよりも早くヤムライハが叫んだ。
果たしてその真実とは、いかなるものか。

シンドリアの命運は、
叶わない恋の道は、


いかなるものか







願えば願うほど苦しいのです

(だって貴方は既に遠い人だもの)

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