思いもよらぬ手の差出人に目を見開いたシエルの瞳に映っていたのは表情を変えずにシエルを見つめる白龍。
会いたかった、その言葉が指し示す意味を知るのは白龍だけだ。
シンドリア一行はその様子に全く気付いておらず、シンドバッドの今後の身の振り方について話し合っている。
『私に……?』
「えぇ。ですがそれより、大丈夫ですかシエル殿」
『は、白龍様の心配には及びません』
「…そのように泣きそうな表情で言われましても説得力がありませんが」
なんとなく心境を察されているのか、白龍の手は優しいものだった。
現在のシンドバッドの立ち位置は限りなく悪い。
どんな顔で直視すればもわからず距離を取ってしまったが、まさか煌の皇子がそれを気に掛けるとも思っていなかったシエルは困惑を催した。
「シエル殿、あなたは…8人将の方ではありませんよね?」
『あ…はい、及ばずながらも王のお側に置かせていただいています』
敬語自体は使い慣れているのに相手が違うだけでこうも緊張するのか、とシエルは思った。
言い合いをやめないシンドバッドと8人将をチラリと横目に見やり、白龍はシエルと目を合わせる。
「…それにしても、シンドバッド殿は貴殿を特別視しているようですが?」
金属器の光る右手をスッと持ち上げ、白龍は問うた。
シンドバッドの傍に位置しておりながらも8人将ではないシエルの存在は白龍に異端に映ったようだ。
しかし異端なのは自分でも承知の上。
分かっていても離れられないのは惚れた弱み、とでも言っておこう。
何において異端なのか、存在かそれとも。
『…特別なのは私自身ではなく私の力、ですかね』
「……力…とは、例のウリエルの力の事ですか?」
『はい』
白龍に取られた手に力が入る。
首を傾げた白龍にシエルは少し笑みを浮かべた。
『でも信じると決めたのは私なので』
瞬間、シエルの言葉に目を見開いた白龍の手がバシンと音を立てて弾かれた。
「白龍殿!シエルに手を出さないでいただきたい!」
「…お言葉ですがシンドバッド殿、あなたの今の状況からは何も言えないのでは」
「……!!!」
バッと白龍のもとからシエルを奪い取り自分の胸に収める。
シンドバッドの意地のようなものが見て取れるがシエルには複雑な心境でしかない。
しかし感情は正直であり逞しいシンドバッドの腕に包まれるのは嫌ではなく思わず顔は高揚した。
『シ、シンドバッドさ…!?』
「もう我慢ならん!話せばわかると思っていた俺がバカだった!」
堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりの表情でビシッと指を指した先。
「ヤムライハ!頼む、お前の力で俺の無実を証明してくれ!」
真実を導き出せるであろう己の腹心の部下に、全ての解明を。
羅列する恋心に本当の一つ
(白黒ハッキリつけてやる!)
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